<つなぐ 戦後73年>陛下、等身大の願い次代へ 平成最後の終戦の日 - 東京新聞(2018年8月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201808/CK2018081602000138.html
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終戦から七十三年となった十五日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京都千代田区日本武道館で開かれた。天皇陛下が来年四月末に退位されるため、平成最後の追悼式になった。全国から集まった約五千二百人の戦没者遺族が参列、先の大戦で犠牲になった三百十万人を悼み、平和への誓いを新たにした。
皇后さまと共に参列した陛下はお言葉で「ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和とわが国の一層の発展を祈ります」と述べた。
安倍晋三首相は式辞で、歴代首相が述べてきた「不戦の誓い」の言葉を直接は使わず、「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」と表現したものの、アジアへの「加害と反省」には六年連続で触れなかった。
正午の時報に合わせ全員で一分間の黙とうをささげた。厚生労働省によると、全国戦没者追悼式に参列予定の戦没者の子や孫、ひ孫ら戦後生まれの人が占める割合は過去最高の28・5%、千五百五十四人。四年前と比べ人数は倍以上で、世代交代が進んでいる。

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天皇陛下は十五日、在位中最後の出席となった全国戦没者追悼式のお言葉で「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」と、これまでになかった一文を加えられた。戦後日本の歩みを肯定的に評価する表現で、側近の一人は「陛下のあるがままのお考えだ」と話す。追悼式のお言葉には、時代に応じて表現を変えながら、平和と不戦を願い続けた陛下の思いがにじむ。 (小松田健一、荘加卓嗣)

◇変遷
追悼式での陛下のお言葉は、即位後初めて出席した一九八九年から九四年まで、戦後の平和と繁栄への感慨や戦没者への追悼で構成されていた。戦後五十年の一九九五年に「歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」との文言が加わり、以降はほぼ同じ内容が続いた。
戦後七十年の二〇一五年は内容が大きく変わった。「平和の存続を切望する国民の意識に支えられ、我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました」と平和希求の主体は国民であることに言及し、「さきの大戦に対する深い反省」という一文が盛り込まれた。翌一六年以降、元の構成に戻るが「深い反省」は使われた。
宮内庁関係者は今年の「戦後の長きにわたる…」について「平成は近代以降、戦争がなかった初めての時代だった。その締めくくりにふさわしいお言葉で、深い感慨を覚える」と語る。
両陛下の相談役である宮内庁参与を〇六〜一五年に務めた三谷太一郎東大名誉教授(日本政治外交史)は「深い反省の上に立った戦後七十三年間を肯定し、平和が将来も存続することへの願望がはっきり出ている。陛下のお考えの集大成とも言え、象徴天皇制憲法の平和主義は深く結び付いている」と指摘した。

◇継承
元側近は「陛下は戦争の記憶風化に強い危機感をお持ちだった」と述懐する。陛下は皇太子時代の記者会見で「日本人として記憶しなければならない四つの日」に終戦の日沖縄戦終結の日(六月二十三日)、広島、長崎の原爆投下日を挙げた。これらの日は毎年、皇后さまと皇居・御所で黙とうする。
両陛下の気持ちに応えるように、若い皇族も過去を学ぶ。皇太子ご夫妻は九日の長崎原爆の日、午後に英国短期留学から長女愛子さま(16)が帰国するのを待ち、三人で黙とうした。側近は「一緒に黙とうし、愛子さまに平和の大切さを教えたいとのご夫妻のお考えから」と話す。秋篠宮ご夫妻の長男悠仁さま(11)は十日、紀子さまと一緒に広島市平和記念公園を訪れ、原爆資料館を見学。被爆者の体験談にも聞き入った。
陛下は来年四月末の退位後、戦没者追悼式への出席を含む全ての公務を新天皇となる皇太子さまへ譲り、両陛下の姿が国民の目に触れる機会は大幅に減る。宮内庁幹部は、今後の両陛下による戦没者慰霊について「お気持ちは変わるはずがない。節目の日は、これまで同様にお住まいで黙とうされるなど静かに過ごすのではないか」と話した。

天皇陛下のお言葉(全文
本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来既に七十三年、国民のたゆみない努力により、今日のわが国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。
戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ、ここに過去を顧み、深い反省とともに、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和とわが国の一層の発展を祈ります。