「入国規制」判決 米国は歴史から学べ - 東京新聞(2018年7月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018070302000174.html
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太平洋戦争中の日系人差別を容認した汚点の再現ではないか−。トランプ政権によるイスラム圏からの入国規制を支持した米連邦最高裁の判決はこんな批判を浴びる。米国は歴史から学んでほしい。
先週あった判決は、国家の安全保障のために入国管理には大統領に幅広い裁量権を認めた。九人の判事のうち保守派四人と中間派一人の計五人の賛成によるという際どい司法判断だった。
トランプ氏は大統領選中からイスラム教への差別発言を繰り返し偏見をあおった。
大統領令として踏み切った入国規制措置は「イスラム禁止令」と非難された。
ところが判決は、対象国のシリアやイランなどのイスラム教徒は世界の全イスラム人口の8%にすぎないし、安全保障上のリスクがある国に限定してもおり、大統領令に「宗教的敵意」があるとは言えないと主張した。
大統領令は宗教には何も言及しておらず「文面上は宗教に対して中立だ」とも指摘。信教の自由を保障した憲法に反するとの原告の主張を退けたうえで「われわれは政策の健全性には見解を示さない」と締めくくった。
大統領令の字面をなぞって、隠れた意図や動機に踏み込まないことを認めたにも等しい。ブレーキ役を果たすべき司法が逆にお墨付きを与えてしまっては、トランプ氏の暴走が高じかねない。
米国最大の人権団体である全米市民自由連合(ACLU)は声明で「司法が間違ったからには、あなた(国民)が行動を起こさないと、自由、平等という国の最も基本的な原則を支えきれなくなる」と訴えた。
反対に回った四人のリベラル派判事の中には、太平洋戦争中の日系米国人強制収容を追認した最高裁判決と「同じ重大な誤りの繰り返しだ」とする意見もあった。
ルーズベルト大統領の命令によって十二万人余の日系人がわが家を追われた悲劇である。米政府はレーガン政権時の一九八八年になって謝罪し生存者に補償した。
キャスチングボートを握っていた中間派のケネディ判事が引退を表明したのも気掛かりだ。トランプ氏は後任に保守派を指名する構えだからだ。
二〇一五年の同性婚の合憲判決をはじめ、最高裁の判断は社会に大きな影響力を与える。それだけに偏った判決が増えないか懸念する。最高裁は建国の精神を思い起こしてほしい。