米入国禁止令の一部容認 「自由の国」の奇妙な判断 - 毎日新聞(2017年6月29日)

https//mainichi.jp/articles/20170629/ddm/005/070/035000c
http://archive.is/2017.06.29-020632/https://mainichi.jp/articles/20170629/ddm/005/070/035000c

玉虫色の、何とも奇妙な判断と言うしかない。
米連邦最高裁は、イスラム圏6カ国からの入国を一時禁止する大統領令を条件付きで認めた。一方で、その大統領令が合憲か否かという、最も重要な論点については10月以降に判断を先送りした。
トランプ大統領がテロ対策として1月と3月に出した大統領令は、いずれも下級審によって執行が停止された。イスラム圏のみを対象にするのは、憲法が定める信教の自由に反する恐れがあるなどの理由からだ。
だから、「連邦最高裁まで闘う」と言っていたトランプ氏が快哉(かいさい)を叫ぶのも無理はないが、今回の判断には重大な問題が少なくない。
まず連邦最高裁は、6カ国の国民でも米国と「真正な関係」を持つ人は入国禁止の例外とした。米国の大学や会社に入学・就職を予定する人や米国内に親族がいる人などだが、ニューヨーク・タイムズなどの社説が、何をもって「真正」と言うのかと問題提起したのは当然だ。
また連邦最高裁9人の判事のうち大統領令の全面執行を求めた3人は判断に賛同しつつ、例外を認める「妥協」は「訴訟の洪水」を招くと警告した。確かに施行上の混乱は必至だろうが、もっと根本的な問題もある。
入国禁止の対象は1月の大統領令ではイラクを含む7カ国だった。イラクは過激派組織との戦いで米国と共闘しているとして除かれたが、選定が場当たり的な印象は否めない。
しかも、その6カ国は米国と国交がないか人的交流に乏しく、入国希望者は前から少ない。加えて近年のテロは米国や欧州の在住者が実行する例が多い。入国禁止がテロ対策にどう役立つのか理解に苦しむ。
トランプ氏は大統領選時から「イスラム教徒の全面入国禁止」を訴えてきた。大統領令の背景にはこうした排外的な思想が指摘されているのに、たとえ条件付きでも連邦最高裁が容認するのは危険だろう。
90日間の入国禁止、120日間の難民受け入れ停止の措置は秋に失効する。だから連邦最高裁があえて最終判断をするかは微妙だが、ことは世界のテロ対策にも、米国のイメージにもかかわる。最終判断を行うなら、米国が「自由の国」であり続けられる見解を示してほしい。