米の入国禁止令 司法がブレーキかけた - 東京新聞(2017年2月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017021402000134.html
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司法がブレーキ役を果たした。イスラム七カ国からの入国を禁ずるトランプ米大統領の命令の差し止めを支持した連邦高裁の判断だ。互いがチェックし合う三権分立が機能したと評価したい。
高裁は大統領令によって市民が受ける苦痛や損害と、国の安全という公共の利益を検討した。
その結果、七カ国の出身者が米国でテロを実行した証拠を政権側が示せなかったのに対し、入国できなかった人々が家族と離れ離れになった「取り返しのつかない損害」を原告側は示したと判断した。
「司法は大統領令を審査する権利はない」という政権側の主張も退けた。妥当な判断だ。
ただし、高裁は「原告の主張から深刻な疑惑が生じ、憲法上の重大な問題が提起された」と指摘しながらも、大統領令イスラム教徒を狙い撃ちした宗教差別なのかどうかの判断までは踏み込まなかった。
だが、大統領令の草案づくりを手伝ったジュリアーニニューヨーク市長はテレビ番組で、トランプ氏から「イスラム禁止令」を合法的な形でつくるよう要請され、「宗教の代わりに脅威に重点を置いて作成した」と明らかにした。
大統領令はテロ対策の体裁を整えながら、作成の動機はやはり違ったようだ。
トランプ氏は大統領令を差し止めた下級審の判事を「いわゆる裁判官の意見はばかげている」「何か起きたら、彼と裁判制度のせいだ」と繰り返し批判した。
司法の独立への脅しに近い。裁判所は大統領である自分の意向に沿うべきだと考えているのではないか。
米メディアによると、トランプ氏から連邦最高裁判事に指名されたゴーサッチ氏でさえも、トランプ氏の司法攻撃にはうんざりしているという。トランプ氏は三権分立の意義をよく認識してほしい。
政権側は法廷闘争を続け、新たな大統領令も出す構えでいるが、入国禁止路線から撤退した方が生産的だ。
米国のテロ専門家からは、「米国はイスラム世界と戦っている」と喧伝(けんでん)するイスラム過激派勢力を利することになり、逆効果だという懸念が出ている。
米国は世界中から優秀な人材を引きつけてきた。移民に大きく依存するIT業界をはじめ多くの企業が大統領令に反対だ。
トランプ氏は経済的にもマイナスであることを悟るべきだ。