米大統領令 やはりイスラム差別だ - 毎日新聞(2017年3月21日)

http://mainichi.jp/articles/20170321/ddm/005/070/125000c
http://archive.is/2017.03.20-201009/http://mainichi.jp/articles/20170321/ddm/005/070/125000c

再び司法からの「待った」である。
トランプ米大統領が今月署名した入国規制の大統領令に対し、ハワイなど2州の連邦地裁が相次いで執行停止の仮処分を決めた。
16日に発効するはずだった大統領令は土壇場で差し止められた。
トランプ大統領には手痛い敗北である。1月末に出した大統領令が執行停止とされたため「改良版」の大統領令を出したが、やはり司法のお墨付きを得られなかった。
トランプ大統領は「司法の行き過ぎだ」と非難する。だが、むしろ政治の暴走を司法が止めたのであり、トランプ氏のイスラム観に重大な疑念が示されたと考えるべきだ。
大統領令の最大の問題点は、テロ対策としてイスラム圏6カ国(イラン、シリア、イエメン、リビアスーダンソマリア)からの新規入国を90日間禁止したことだ。
これに対しハワイ州の連邦地裁は、好ましくない人を入れたくないからといって国民全員を入国禁止にするのは不当だとの判断を示した。
メリーランド州の連邦地裁は、トランプ氏が「全イスラム教徒の入国禁止」を大統領選時から主張していたことを指摘した。1月の大統領令からイラクを外して6カ国にしたとはいえ、基本的にイスラムに対して差別的だというのだ。
いずれも妥当な判断である。米国の憲法は特定の宗教を特別扱いしたり差別したりすることを禁じている。なぜイスラム教徒が9割以上を占める国ばかり選んだのか、この6カ国がテロとどう関係するのか、政府側から説得力のある説明はない。
目に付くのは「イラン封じ込め」の気配だ。イスラムシーア派のイランは、イエメンのシーア派武装組織や、シーア派の一派とされるアラウィ派を信奉するアサド・シリア政権との関係が深い。この3カ国で対象国の半分を占める。
他方、スンニ派の盟主サウジアラビアはアサド政権と対立し、イエメンの武装組織と戦っている。大統領令からは、イランと断交中のサウジを支援しイランを封じ込めようとする意図が感じられる。
だが、米同時多発テロ(2001年)の実行組織アルカイダにはサウジ人が多く、首謀者のウサマ・ビンラディン容疑者もサウジ出身だ。国籍では判断できないし、米国で生まれ育った「テロ予備軍」もいる。
トランプ大統領は連邦最高裁まで闘う構えだが、米国の開かれた社会に「入国禁止」はそもそもふさわしくない。イスラムに対するトランプ氏の強硬姿勢こそが米国への反感をあおり、対米テロを誘発する危険性をはらんでいるのではないか。そのことに早く気付くべきだ。