(筆洗)財務省トップの麻生さんがお辞めにならぬのも納得できぬ。 - 東京新聞(2018年6月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018060502000139.html
https://megalodon.jp/2018-0605-0907-26/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018060502000139.html

ある藩の幹部が冷酷苛烈な政治を行った。領民を苦しめ、藩内の反対勢力には刃(やいば)を向けた。が、その職を降りたとき、男は自分を死罪にせよと求めた。山本周五郎の短編『晩秋』である。
男が専横な政治を行ったのは藩の基礎を急いで確立するためであった。それならば罪にならぬと諫(いさ)める者に対して、男は否定する。どんな理由があろうと、「政治の過誤がゆるされる道理はないのだ」。藩のためでも間違ったことは間違っている。
漫画ファンで新聞さえお読みにならないと聞いたが、麻生太郎財務相にぜひとも、この短編で、身の処し方を考えていただきたいものである。学校法人「森友学園」に対する国有地売却をめぐる決裁文書改ざん問題で財務省内の処分が決定した。文書改ざんや廃棄指示を主導した、当時の理財局長の停職三カ月も甘いが財務省トップの麻生さんがお辞めにならぬのも納得できぬ。
財務省が国民を欺いたのである。事は重大で、あの小説とは違い、一分の理もない政治の過誤である。大臣が関与したとはいわぬが、それを許してしまった。トップが身をもって責任を取るのは当然である。
閣僚給与の一年分を自主返納というのも不愉快である。無給なら、国民が許すとでもお考えか。カネで買えぬものがある。
著書に『とてつもない日本』というのがあった。とてつもないのは、その面の皮の方である。