(筆洗)安倍政権に盾ついた前次官への憎しみか。 - 東京新聞(2018年3月21日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2018032102000150.html
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腕に自信のない臆病な下級武士が藩内で人を殺(あや)めた剣術の名人を討ち取らねばならなくなった。まともに立ち合っても勝てる見込みはない−。山本周五郎の『ひとごろし』。どうするか。
武芸者の後をつけ回すことにした。背後から狙うのではない。武芸者に向かって「ひとごろし。誰か来て下さい」「みなさん用心して下さい」と叫ぶのである。その声に宿屋もめし屋も逃げていく。どこに行こうがこの調子で武芸者はほとほと弱りきる。
結末は書かないが、叫ばれる方の身になれば腹の立つ戦術だろう。「卑怯(ひきょう)みれんな手を使って、きさまそれで恥ずかしくはないのか」。武芸者のせりふをそのまま使いたくなるような、前川喜平前次官の名古屋市立中学での授業内容について、文部科学省が市教委に報告を求めた問題である。
自民党二議員が一枚かんでいる。前川氏の授業を問題視し「法令違反をした人が教壇に立てるのか」などと同省に問い合わせていた。
文科省は独自の判断で市教委に報告を求めたと説明しているものの、二人の文教族の顔色を見て、対応したという世間の疑いは消しにくいだろう。
政治による学校現場への介入は大問題だが、それ以前に胸が悪くなる。安倍政権に盾ついた前次官への憎しみか。「法令違反の人」といつまでも叫び続け、評判を落とす。事実なら大人の、自民党文科省のいじめである。