幹部自衛官暴言 旧軍の横暴想起させる - 東京新聞(2018年4月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018041902000174.html
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背筋がゾッとする異様な行為である。現職の幹部自衛官が国会議員に「国民の敵」などと罵声を浴びせた。旧軍の横暴を想起させ、断じて許されない。再発防止の徹底と責任の明確化を求めたい。
まずは事実関係を確認したい。民進党小西洋之参院議員によると、十六日午後九時ごろ、国会議事堂前の公道で、現職の自衛官を名乗る男が小西氏に「おまえは国民の敵だ」「おまえの議員活動は気持ち悪い」などと罵声を浴びせた。
小西氏の警告にもかかわらず罵声は約二十分続き、最終的には発言を撤回した。
男は航空自衛官で、陸海空三自衛隊で構成する統合幕僚監部の指揮通信システム部に勤める三佐。いわゆる幹部自衛官である。
小西氏は「全国民を代表する選挙された議員」だ。その議員で組織する国会が、自衛隊の組織や活動を法律や予算の形で決める。指揮監督権を有する首相や内閣を文民とする憲法上の規定と合わせて文民統制シビリアンコントロール)の重要な要素である。
その統制に服するべき国会議員に対し、現職の幹部自衛官が罵声を浴びせるなど言語道断だ。自衛隊法は隊員に選挙権の行使を除く政治的行為を制限し、信用を失墜させる行為を禁じている。
男の行為は自衛隊法に反し、文民統制を脅かす。厳正な処分と再発防止の徹底は当然としても、小野寺五典防衛相や河野克俊統合幕僚長らの監督責任も免れまい。
このニュースを聞いて、戦前・戦中の旧日本軍の横暴を思い浮かべた人も多かったのではないか。
一九三八年、衆院での国家総動員法案の審議中、説明に立った佐藤賢了陸軍中佐(当時)が、発言の中止を求める議員に「黙っておれ」と一喝した事件は代表例だ。
佐藤中佐は発言を取り消したものの、軍部は政治への関与を徐々に強め、やがて軍部独裁の下、破滅的な戦争へと突入する。
文民統制は旧軍の反省に基づくものであり、民主主義国家としてそれを脅かすいかなる芽も見過ごしてはならない。
しかし、小野寺防衛相は「若い隊員なのでさまざまな思いがあり国民の一人として当然思うことはある」と述べた。自衛官をかばうかのような発言だ。事態の深刻さをよく理解していないのではないか。
文民統制の軽視は、イラク南スーダンなど海外派遣部隊の日報隠しにも通底する。「いつか来た道」を歩み出してからでは遅い。自覚と規律を徹底すべきである。