歯止めづくり進まず 軍事研究指針整備 3割のみ - 東京新聞(2018年4月4日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018040402000140.html
https://megalodon.jp/2018-0404-0913-23/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018040402000140.html

日本学術会議の山極寿一(じゅいち)会長(京都大学長)は三日、大学などが軍事関連予算で行う基礎研究の是非について、「全国で統一した指針がほしい」と記者会見で述べ、各大学などが共有できる審査指針モデルを作る意欲を示した。
学術会議は同日、防衛省が助成する軍事応用可能な基礎研究の公募に関する各大学などへのアンケート結果を東京都内の総会で公表。応募時の審査指針や手続きを整備しているのは三割強にとどまり、約二割は指針などの整備に向け「検討中」と回答した。
山極会長は「指針や手続きを作ろうとしている機関が多い」と評価。ただ、大学側が独自に指針を策定するのに苦労する例も多いことから、統一の審査指針モデル作りを考えているという。指針がまちまちだと学生や研究者が他大学へ移りにくくなったり、留学生の受け入れに支障が出たりする危険性もあるという。
アンケートは、防衛省の公募制度を「政府による介入が著しく、問題が多い」とした昨年三月の学術会議声明への対応を把握する目的で実施。声明は、助成を受けようとする研究の適切性を審査するよう大学などに求めている。回答では、防衛省公募も含めた軍事と科学研究の在り方について、基本原則が「ある」としたのは約44%、「ない」は約38%だった。
過去の戦争協力への反省から学術会議は「軍事研究は行わない」という声明を掲げてきた。琉球大や、山極会長が学長を務める京都大が軍事研究をしない基本方針を公表。関西大や法政大も、防衛省公募に応募しない方針を示している。
調査は今年二〜三月、全国の主な大学や研究機関を対象に実施。回答したのは約74%に当たる百三十五の国公立大、私立大、研究所など。個別の大学名などは明らかにしていない。
今後、回答の自由記述も踏まえて分析し、九月のシンポジウムで公表する。

◆各大学 個別対応に苦慮
<解説> 日本学術会議は昨年三月に出した軍事研究に関する新たな声明で、「学術の健全な発展という見地から問題が多い」として、各研究機関に審査制度を設けることで、安易な応募に歯止めをかけるよう求めた。
しかしこの日の報告では、審査制度を設けたのは三割にとどまり、二割は「検討中」。検討中の七割が「具体的な見通しがたっていない」と回答するなど、声明が出てもなお、具体的な対応に苦慮している姿が浮かび上がった。
執行部や評議会などで新声明への対応を話し合った研究機関は七割を超え、一割は独自の検討組織も立ち上げるなど、三成美保副会長は「声明が一定のインパクトを与えたことは明らか」と評価する。
一方、声明では、軍事研究への応募の是非までは踏み込んでおらず、「審査をクリアすれば、軍事研究に応募できる」(前会長の大西隆豊橋技術科学大学長)と解釈する大学もあり、受け止めも一様ではない。あいまいな書きぶりが歯止めとなる仕組みづくりを躊躇(ちゅうちょ)させている面もある。
軍事研究禁止をホームページで公表した京都大学長でもある山極寿一会長は「大学ごとに(軍事研究の)ガイドラインを作るより、ある程度統一したものが学術会議としてできるといいとは思う。今後、報告書などを精査し考えていきたい」と意欲を語る。学術会議として、さらに踏み込んだ軍事研究禁止のガイドラインを打ち出せるか否か、執行部の力量が問われている。 (望月衣塑子)