18歳成人国会議論へ 責任を背負う重さも - 東京新聞(2018年3月14日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018031402000173.html
https://megalodon.jp/2018-0314-0907-59/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018031402000173.html

成人年齢を二十歳から十八歳に引き下げる−。民法改正案を閣議決定した。国法上の統一が狙いだが、責任も丸ごと背負う。慎重な議論が必要だ。
「大人」とは辞書にはこうある。「十分に成長した人。一人前になった人。成人」(広辞苑
大人になれば、自分の責任で何でもできる。選挙権も得るし、いろいろな契約も一存でできる。競馬も競輪もできるし、たばこも酒も…。そんなイメージだった。成人、すなわち大人には、分別があるという意味も加わっていたはずである、昔は。

◆成人を狙う悪徳業者
だが、十八歳とは高校三年生のうちに達する年齢である。既に選挙権年齢は十八歳になった。成人年齢も十八歳に引き下げたら、もう大人になったのだからという口実で、高校生が酒を飲み、たばこを吸って、馬券を買うのか?
まさか、そんなことにはならない。たばこや飲酒、競馬などの公営ギャンブルは二十歳以上を維持する。結婚年齢は男女とも十八歳に統一する法案が出ている。
顕著に違いが出るのが、十八歳で成人になると自分の意思で契約できるようになることだ。
身近なケースだと、未成年者は自分でアパートを借りる契約ができない。十八歳成年になれば自分で契約ができる。親の同意がなくても、一人で高額な商品などを購入する契約が可能になる。ローンやクレジットカードなどの契約もある。
だが、実は契約ができる年齢を狙った消費者被害が多い。国民生活センターの二〇一五年の調査によれば、マルチ取引の相談件数は「二十歳〜二十二歳」が「十八歳〜十九歳」の一二・三倍。二十歳になったとたん若者がマルチ取引の勧誘にあっているわけだ。ローンなどでも、ほぼ同じ比率でトラブル相談が増加している。

◆「契約」に80%が反対
十八歳成人になると、現在の「未成年者取り消し権」がなくなる。現行では未成年者が高価な買い物をするときは、原則、親の同意が必要で、同意がなければ、契約を取り消すことができる。だが、十八歳成人の場合は、成人なので取り消すことができない。
内閣府が一三年に行った世論調査がある。「十八歳、十九歳の者が親の同意がなくても一人で高額な商品を購入するなどの契約をできるようにすること」について問うた。賛成はわずか18・6%。反対は79・4%だった。
悪徳商法に狙われる−。それを敏感に感じ取った数字だろう。このため政府は改正消費者契約法案を出している。「困惑する状況で結んだ契約」を取り消せる規定を盛り込んだ内容だ。悪徳業者による消費者被害を防止するための法案である。
果たして有効な対策になるか。他の対策もあろうが、深刻な事態を引き起こさぬよう政府はよほど慎重に考えないと、新たな被害を生みかねない。国民の懸念は極力払拭(ふっしょく)してほしい。
また少年法への波及を恐れる。刑罰よりも保護が適切という精神で、少年の立ち直りを第一に考える法だ。だから少年事件は科学的見地から鑑別調査が行われ、家庭裁判所がその少年にとって最善の処遇方法を決める。法の趣旨から、今回の法案に同調するように、少年法の対象年齢も引き下げることには反対する。
確かに諸外国では十八歳成人のケースが多い。日本の場合はまず国民投票法で十八歳ありきでスタートし、選挙権、そして国法上の統一性というテーマから成人年齢も引き下げる流れだ。少子高齢化の中で若い年齢の社会参加という意味もあろう。
むろん十八歳を成人とすることで、大人の自覚を促す含意もある。それは期待したい。選挙権を持っているのだから、政治的な意見を持ち、意見を表明する権利ももちろんある。
社会的に独立した人格であり、尊重されねばならない。そのような意味で、諸外国と同様に十八歳を成人とすることに賛同する気持ちも十分理解する。
今や大半が大学や専門学校などへ進学する時代だ。経済的に十分自立していない若者をどう見るか。そんな論点もあろう。

◆二十歳とは徴兵の年
二十歳成人のルールは、一八七六(明治九)年の太政官布告までさかのぼる。近代の国民国家で成人が持つ意味の一つに徴兵がある。成人になれば、兵役の義務が多くの国にあった。日本でも同じだった。
赤紙」と呼ばれた召集令状が来たのは二十歳の成人から。十八歳成人に若者の社会参加という明るいイメージを持つか、それとも−。成人のルール変更は、国民の意識や文化まで影響するテーマだ。拙速だけは慎みたい。