http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/list/201612/CK2016123102000123.html
http://megalodon.jp/2016-1231-1115-35/www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/list/201612/CK2016123102000123.html
民法の成人年齢を20歳から18歳に引き下げる国会での議論が来年、本格化する。海外では18歳を成人とする国が多く、若者の政治や社会参加につながると期待する声もある。一方で18、19歳が、悪質商法の被害に遭うのではとの懸念は根強い。本紙は元旦号から、成人年齢引き下げをテーマに、若者の声を特集する。導入編として、2人の専門家に意見を聞いた。 (聞き手・柚木まり)
◇まず消費者教育の充実 細川幸一さん
民法の成人年齢を安易に十八歳に引き下げることには、反対の立場だ。一律に引き下げるのではなく、例えば、十八歳で起業したいと考え、現行の二十歳成人では不利益を被ると思う若者を、申し出によっては成人とみなす制度の導入を、まず考えてはどうか。
携帯電話や旅行など、未成年によるお小遣いの範囲を超える契約は、親権者の承諾がない場合、取り消すことができる。経験が少なく知識も浅いという理由から、民法は未成年を「制限行為能力者」として保護しているためだ。
消費者保護の観点から、十八、十九歳の契約の取り消し権が失われることを最も懸念している。
民法で成人と規定されることは、世の中の多くのことで大人扱いされるということになり、影響力は非常に大きい。現在、二十代の消費者被害も多く、仮に十八歳を成年とすれば、十八〜二十二歳を「若年成年」に設定し、保護策を講じるべきだという意見もある。
しかし、二〇〇九年に法制審議会が選挙権とともに成人の十八歳引き下げを適当と指摘してからの議論は、あまりにも拙速だ。関連する法律の影響の検証や、消費者教育の充実をもっと考えるべきだろう。
高校での消費者教育はまだまだ不十分だ。大学でも受講する学生は少ない。現状で十八歳が成人になれば、ビジネスや消費者心理を知り尽くした事業者に、未熟なプレーヤーとして対峙(たいじ)することになる。若者を狙った強引な商法が行われることは容易に予想できる。
このため、クレジットカードのリボルビング払いの利息を計算させたり、あえて悪質商法のメールを開かせたりする体験型教育が重要になる。十八歳と二十歳の差は決して小さくはない。議論を尽くすべきだ。◇自覚 より芽生えやすい 田中治彦さん
今年七月の参院選では、選挙権が十八歳に引き下げられた。各政党が若い世代にアピールする政策を出すようになり、今月、政府が給付型奨学金制度の導入を発表したことは、一つの成果と言えるだろう。
三つの点から、民法の成人年齢を引き下げるべきだと考えている。一つは、若者が政治や社会に参加することで日本の活性化につながること。次に、十八歳でおよそ二割の人が働き自立していること。三つ目は、世界の九割以上の国が、十八歳以下の成人年齢と選挙権を定めていることだ。
日本の法律の「成人」年齢は、十八歳と二十歳の二本立てになっている。民法や少年法は、二十歳以上を成人と規定し、酒やたばこ、公営ギャンブルも二十歳以上でなければ認められない。一方で、労働基準法や児童福祉法は十八歳から「成人」と規定している。
このため、現状では、未成年でも酒をお客に出す仕事に就くことはできるが、飲酒はできないといった齟齬(そご)が生じている。成人規定は、すべての法律で同じ年齢にそろえるべきで、必要に応じて特別な措置を講じる方が望ましい。
民法の成人年齢引き下げには、およそ三百の法律や政令などが関係してくる。保護者の承諾が無くても、携帯電話や家賃の契約ができるようになったり、取得できる資格が増えたりする。今後は、飲酒や喫煙の問題も議論されることになるだろう。
二〇〇〇年前後、「荒れる成人式」が話題になった。若者の人生で、二十歳が区切りの年になっていないと感じた。成人式の意義が分からないから、暴れてしまう。十八歳は、進学や就職などで新たなスタートを切る人が多い。成人としての自覚がより芽生えやすいのではないだろうか。<ほそかわ・こういち> 日本女子大家政学部教授。専門は消費者法、法学教育。2010年から現職。元消費者委員会委員。悪質商法や就職、労働など、弱い立場の若者に身近なトラブルを通じ、法律への理解を広めている。
<たなか・はるひこ> 上智大総合人間科学部教授。専門は生涯教育学、社会教育学。2010年より現職。開発教育、青少年期の社会教育などを中心に研究。最近は、18歳選挙権に伴う市民教育や子ども・若者の居場所論も研究。
<民法の成人年齢引き下げ> 法務省は来年の通常国会に、民法の成人年齢を現行の20歳から18歳に引き下げる改正法案の提出を目指している。改正法の公布から施行まで3年程度の期間を設ける予定で、早ければ2020年から民法の成人年齢は18歳以上となる。
民法の成人年齢が18歳になれば、18歳や19歳の若者が、親の同意なしにローンを組んで車や家などを買ったり、携帯電話やクレジットカードも契約できるようになる。現行では20歳未満は代理人が必要だが、18歳、19歳でも民事裁判を起こすこともできる。
だが、法務省が11月に公表した意見公募では、改正法施行に「支障がある」との意見が大多数を占め、18、19歳の新成人が消費者被害に遭う危険性が増大するとの指摘が多かった。
法務省などによると、成人年齢に関する法律は212本、政令37本、府省令99本の計348本。民法の成人年齢が18歳になれば、212本の法律のうち6〜7割が、見直しの対象になるとみられる。
成人年齢引き下げの議論は、憲法改正の手続きを定めた07年の国民投票法成立がきっかけ。国民投票の投票年齢が18歳以上とされ、法相の諮問機関の法制審議会(法制審)は09年、「民法の成人年齢を18歳に引き下げるのが適当」と答申。15年の公職選挙法改正で、今年夏からは選挙権も18歳以上となった。
法務省は、20歳未満と規定する少年法の適用年齢についても、省内で検討している。飲酒や喫煙のほか、競馬、競輪など公営ギャンブルについては、別の法律で、20歳未満は禁じられている。