http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016100502000142.html
http://megalodon.jp/2016-1005-0906-01/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016100502000142.html
成人の年齢を十八歳へと引き下げる−。民法の規定を改めようと政府は動いている。選挙年齢の引き下げに連動させる狙いだが、本当に十八歳、十九歳のためになるのか、丁寧な議論が必要だ。
今年の参院選は十八歳以上が投票した。発端は二〇〇七年に成立した国民投票法だ。この法律は憲法改正手続きを定め、投票年齢を原則十八歳以上とするが、付則で民法や公職選挙法に「必要な措置を講じる」ことを求めていた。
公選法が十八歳以上となったから、今度は民法が俎上(そじょう)に載った。
法制審議会の中間報告では「両論併記」だったが、国民投票法成立に動いた国会議員からの反発があった。〇九年の最終報告では民法の成人年齢を「十八歳が適当」とまとめた経緯がある。政府は来年の通常国会にも改正案を提出したい考えだ。
だが、「大人の定義」を変更する改正は国民生活に実に影響が大きい。積極派は国法上の統一性を挙げたりする。また十八歳と十九歳を大人の仲間入りさせることで、若年層に大人の自覚を促す狙いがあると考える。少子高齢化に活力を与えるかもしれない。諸外国の大半は成人年齢が十八歳という国際的見地から引き下げるべきだとの意見もある。
慎重派は主に成人に伴う責任がのしかかる懸念を主張する。たとえば契約は未成年者であることを理由に取り消すことができなくなる。自己の判断で高額商品を買ったり、ローンやクレジットカード、不動産などの契約ができるようになるからだ。とくにネット取引の時代は若年層が消費者被害に直面している。悪徳商法のターゲットとなる可能性も高いのだ。
親権の問題もある。成人は親権に服さないので、自立困難な若者が親の保護を受けられなくなる。離婚後の養育費の支払いも「成人まで」と合意がある場合は、十八歳で打ち切られてしまう。高校在学中に十八歳になると、親を介した生徒指導が変化する可能性もあろう。ただし、この改正を少年法の適用年齢引き下げの口実としてはいけないのは当然だ。
「二十歳成年」のルールは明治時代から続く。成年の引き下げは国民の意識や文化まで影響しよう。しかも、大学や専門学校などへの進学率は70%を超える時代だ。経済的に自立していない若者を成人にしていいか。苦しめる結果にならないよう国民的な議論を活発化させたい。