障害者と働く農園 大きくなぁれ 元支援学校教諭、トマト農家に - 東京新聞(2017年12月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122802000217.html
http://web.archive.org/web/20171228083033/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201712/CK2017122802000217.html

「障害者が働く場をつくりたい」と今年5月に就農した元特別支援学校教諭芹沢健さん(33)が、ハウスで栽培したトマトの出荷を始めた。「農業をやりたいという生徒は多い。事業を広げて一人でも多く迎えたい」と夢を語る。 (中里宏)
芹沢さんは筑波大大学院を卒業後、さいたま市立小学校の特別支援学級補助員などを経て、二〇一三年、埼玉県の高校体育教員に採用され、川越特別支援学校高等部に配属された。
担当した農園芸班で生徒たちの可能性に気付いた。「広々とした場所で、のびのびと作業ができれば能力を発揮できる。農業に向いている子が多い」
しかし、生徒たちは卒業後、一般企業などに就職できなければ作業所で月一万〜三万円ほどの収入しか得られない。「働く能力のある子がもっと給料をもらえて、自立につながる場所をつくりたい」と考え、昨年三月に退職した。
今春、元同僚に埼玉県川島町で観光農園を経営する間仲浩樹さん(49)を紹介されたのが、農業に踏み出すきっかけとなった。次女が川越特別支援学校に通っていた間仲さんも、「障害者の働く場を」の思いは同じだった。
間仲さんの紹介で、川島町のイチゴ栽培をしていた千二百平方メートルのハウスを借りることができた。一年間、耕作していなかったハウス内は雑草で埋めつくされていた。高校、大学を通じて野球部で活躍し「炎天下に強い」と自負する芹沢さん。五月から、四〇度を超えるハウス内を一人で片付け、七月には種まきにこぎ着けた。トマトは、間仲さんのアドバイス水耕栽培にした。土で育てるのとは違い、手入れが簡単で障害があっても作業がしやすい利点があるという。
トマトの出荷量はまだ少ないが「冬なのに驚くほど甘く、味が濃い」と周囲の評判は上々。芹沢さんは「トマトの株数を増やして一八年度中に、まず障害者一人を雇うのが当面の目標」と話す。
計画は緒についたばかり。芹沢さんのトマトや、間仲さんが栽培するイチゴ、ブルーベリーをお客さんが収穫し、ピザなどにして味わってもらうカフェを作る夢を描く。「農場やカフェで、障害者に伸び伸びと働いてもらい、健常者との触れ合いの場にもなる。そんな場所をつくりたい」

◆自分のペースで 収入もアップ
障害者が農業に携わる動きは、福祉団体と農業従事者が協力する「農福連携」によって全国に広がっている。背景には障害者の就業・自立の難しさと、農業従事者の高齢化による担い手不足がある。
NPO法人日本セルプセンターが二〇一三年度に実施したアンケートによると、全国の障害者就労支援事業所(作業所)の33・5%が農業活動に取り組んでおり、今後取り組みたいとした事業所も12・7%あった。障害者雇用を親会社の法定雇用率に算入できる「特例子会社」をつくり、複数の農家から軽作業を請け負う事業を始める企業も現れている。
厚生労働省の調査では、一般企業などに就職できない障害者の受け皿となっている就労継続支援B型事業所といわれる作業所での平均工賃月額は、一五年度で約一万五千円。約七割は平均工賃以下だった。
これに対し、無農薬・有機栽培で付加価値を付けた農産物を栽培し、障害者に月平均五万円を支払っている企業もある。
〇九年から障害者を雇用して無農薬・有機栽培に取り組んでいる埼玉県飯能市NPO法人ぬくもり福祉会たんぽぽの岡田尚平総務部長は「自分のペースで働くことができ、野菜が育っていく楽しみや収穫の喜びを通じて、生きがいを感じていると思う」と話す。