ニッポンの大問題 安倍一強と国会の劣化 - 東京新聞(2017年12月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017122902000129.html
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安倍晋三氏が再び首相に就いて五年。このまま続投すれば歴代最長も視野に入りますが、眼前に広がるのは「安倍一強」がもたらした国会の惨状です。
国会は今年三回開かれました。一月召集の通常国会と、安倍首相が冒頭、衆院解散に踏み切った九月の臨時国会衆院選後の十一月に召集された特別国会です。会期は三国会を合わせて百九十日間。首相の政権復帰後、最も短い会期の年となりました。
野党側は通常国会閉会後、憲法五三条に基づいて臨時国会を召集するよう求めていましたが、首相は三カ月間も放置し続け、召集した途端の冒頭解散です。

◆野党の召集要求を放置
野党側は「森友」「加計」両学校法人をめぐる問題と安倍首相らとの関わりを追及しようとしていました。国会を開かなかったり、会期を短くした背景に、追及を避ける首相らの狙いがあったのかもしれませんが、召集要求の放置は憲法軽視にほかなりません。
「内閣の助言と承認」に基づいて天皇が国事行為を行うと定めた憲法七条に基づく衆院解散も、慣例化しているとはいえ「解散権の乱用」との批判が続いています。
衆院解散は、立法府を構成する国会議員の職を、行政府の内閣が一方的に奪う行為だからです。
内閣不信任決議の可決や信任決議案の否決という憲法の規定に基づくものでなければ、政府提出の予算案や重要法案が否決された場合や、国論が二分されて国民に判断を仰ぐ必要がある場合など、大方の国民が納得できる相当の理由が必要でしょう。
首相は国会議員から選ばれる必要があります。閣僚の過半数も同様です。政府は国会が決める法律や予算に従って行政権を行使します。国会は憲法上、内閣に優越するように見えます。何せ、国会は「国権の最高機関」ですから。

◆下請け機関と化す与党
国会議員の多くは政党所属ですから、この権力構図は気圧配置にならい「党高政低」と呼ばれ、長らく政権の座にあったかつての自民党では、これが当然でした。
しかし、この力関係は「政高党低」へと徐々に変化し、二〇一二年の第二次安倍政権の発足以降、特に顕著になりました。
背景にあるのが平成に入ってからの政治改革です。自民一党支配下での疑獄事件を機に、政治腐敗をなくすには政治に緊張が必要だとして、政権交代可能な二大政党制を目指して衆院小選挙区制と、政党助成制度が導入されました。
政党・政策本位の制度への転換です。確かにこの制度の導入後、疑獄事件は鳴りを潜めました。
同時に、選挙での政党による公認と、政治資金の配分という政治家の政治生命を左右する権限が、首相を頂点とする政権中枢に過度に集まってしまいます。
首相やその周辺の機嫌を損ねるような言動をすれば、自らの政治生命が絶たれるかもしれない。そんな空気が政権与党、特に自民党議員の間にはびこっているからこそ「安倍一強」とされる政治状況が生まれ、増長するのでしょう。
首相は野党の主張に耳を貸そうとせず、謙虚な姿勢で、丁寧に説明すると言いながら、野党議員に対する国会答弁は尊大です。
特定秘密保護法や安全保障関連法、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法など国の将来を左右する重要法案では採決強行が繰り返されました。そこにあるのは首相官邸の意向を追認する下請け機関と化した与党の姿です。
極め付きは安倍首相の改憲発言です。歴代首相は憲法改正への言及を避けてきました。首相や閣僚らには憲法尊重・擁護義務があり首相による改憲発言は憲法に抵触しかねないからです。
今、自民党内で首相の改憲発言に、面と向かって異を唱える議員はほぼいません。いくら自民党が「改憲政党」だとしても、現行憲法を軽んじるような言動を、許してはいけないのではないか。
首相官邸の振る舞いに国会が注文をつけられない。それは立法、行政、司法が互いを監視し、均衡を図る三権分立の危機です。国会の劣化と言ってもいい。

◆行政に「民主的統制」を
主権者である国民が、その代表で構成する国会を通じて行政権力である内閣を民主的な統制の下に置く。これは権力を暴走させないための重要な仕組みであり、先の大戦の反省に基づくものです。
平成の政治改革が始まって二十年以上がたちますが、そろそろ弊害にも目を向け、改善策を講じなければなりません。安倍政治がその必要性に気付かせてくれたのだとしたら、せめてもの救いです。

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平成の時代もあと一年余り。いまだ解決されない、また新たに浮上した「ニッポンの大問題」を読み解き、読者とともに考えます。