(余録)今年の言葉に「共謀」が選ばれたと聞くと… - 毎日新聞(2017年12月9日)

https://mainichi.jp/articles/20171209/ddm/001/070/101000c
http://archive.is/2017.12.09-000825/https://mainichi.jp/articles/20171209/ddm/001/070/101000c

今年の言葉に「共謀」が選ばれたと聞くと、日本のことかと思う人もいるかもしれない。6月にテロ等準備罪の名で実質的に「共謀罪」の要素を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法が成立した。委員会採決の省略という強引な手段も記憶に新しい。
実は米国でのことだ。有名辞書サイトが「共謀した」と訳される形容詞「コンプリシットcomplicit」を選んだ。悪いと知りながら止めないなど消極的な共謀を意味する。共謀罪の訳に使う「コンスピラシー conspiracy」とは別の言葉だ。
今年3月、米NBCテレビの名物バラエティー番組で架空の香水のパロディーCMが流された。その商品名が「コンプリシット」。女優のスカーレット・ヨハンソンさんがトランプ米大統領の長女、イバンカさん役を演じ、放送後には「コンプリシット」の検索数が急増した。
パーティー会場に豪華なドレス姿で登場したヨハンソンさんの映像に合わせ、「全てを止められるのにそうしようとしない女性のための香り」とナレーションが流れる。イバンカさんも女性を尊重しないトランプ氏と共謀関係にあるという風刺だ。
その後も米大統領選へのロシアの介入疑惑でトランプ政権の「コンプリシット」が取りざたされ、ハリウッドから広がるセクシュアルハラスメント問題ではそれを止められなかった社会の「コンプリシット」が問われている。
積極的に共謀に加わらなくてもあえて異を唱えない。そんな形で社会の不正に加担することは日本でもありうる。米国の例を他山の石としたい。