パレスチナ流血 中東安定は米の責務だ - 東京新聞(2018年5月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018051602000158.html
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パレスチナで続く流血に責任を自覚すべきである。在イスラエル大使館をエルサレムに移転したトランプ米大統領だ。国際社会の指導的役割に復帰し、中東安定に尽くすことを求める。
昨年末にトランプ氏がエルサレムイスラエルの首都と認定し、大使館移転を発表してからわずか半年足らずだ。エルサレムにある領事館施設を暫定的に大使館として使用することで、既成事実を早急に固める狙いなのだろう。十一月の中間選挙もトランプ氏の頭にはあったのではないか。
トランプ氏と同じく歴代大統領の中には、ユダヤ層やキリスト教右派の支持取り付けのため、大使館移転を選挙公約に掲げる人もいたが、就任後は棚上げした。中東和平の仲介役の障害になることが大きな理由だった。
ところが、大使館開設式に出席したトランプ氏の女婿クシュナー大統領上級顧問は「大統領は約束したことは守る」と誇った。そのために抗議のパレスチナ人に多数の犠牲者が出たことをどう受け止めているのか。
ユダヤ教ばかりでなくキリスト教イスラム教にとっても聖地であるエルサレムを、イスラエルは「永遠の首都」と見なす。他方、パレスチナは将来の国家の首都に位置付ける。エルサレムの帰属問題は当事者による話し合いで決めるよう国際社会は促してきた。
エルサレムの首都認定と大使館移転は、米国が中東和平の仲介役を放棄したに等しい。トランプ氏はイスラエルへの一方的な肩入れを改め、イスラエルパレスチナの「二国家共存」を目指す従来方針に立ち戻るべきだ。
シェール革命は米国の外交・安全保障政策において中東の重要性を低下させた。それにつれ米国は後退し、中東地域の混乱につながっている。
この動きを加速させたのが、トランプ氏の内向きな米国第一主義だ。米国の「退場」によって生じた真空に、ロシアやイランが台頭している。
そればかりか米国が踏み切ったイラン核合意からの離脱と大使館移転は、宗教・民族間の対立と憎悪をあおっている。中東が「火薬庫」になりかねない。
そうしておきながらトランプ氏は中東から手を引きたいと公言している。無責任極まりない。
石油の大半を中東からの輸入に頼る日本にとっても、中東安定化は欠かせない。米国が目を覚ますよう働き掛けるべきだ。