http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201710/CK2017101302000157.html
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全国の小中高校で重傷事故が相次ぎ、危険性が指摘されていた組み体操で、昨年度の事故件数は五千二百七十一件で、前年度より約三割減ったことが日本スポーツ振興センター(JSC)の集計で分かった。しかし、骨折といった重傷事故は依然として千件を上回っている。二十七年前に組み体操で中学生の次男を亡くした遺族は「重傷事故のリスクがあると知りながら、子どもを危険にさらす必要があるのか」と疑問を投げかける。 (細川暁子)
JSCは、学校の活動に伴う事故の災害共済給付をしており、学校の授業や行事で実施した組み体操でのけがで医療機関を受診した生徒に、保険金を支払った件数を数えた。大幅な減少は、二〇一六年三月にスポーツ庁が、安全を確保できない場合は実施を見合わせるよう各自治体に通知したのが要因とみられる。
件数には、擦り傷などで念のため受診したといったけがも含まれるが、骨折などの重傷事故も多い。部位や通院期間などは不明だが、骨折は一六年度の五千二百七十一件のうち、千三百二十六件と全体の約25%。一五年度も、約27%の二千百五十七件だった。死亡事故は一九九七年度以降は発生していないが、スポーツ庁の調べでは、六九〜九六年度に九件が発生し、九人が亡くなっている。
死亡事故こそ二十年、発生していないとはいえ、千件を上回る年間の骨折事故の発生件数は、現場で事故を防ぐ有効な手だてが講じられているわけではないことをうかがわせる。
「組み体操に失敗や事故を防ぐための完璧な対応策はない」。こう訴えるのは、九〇年九月に中学三年だった次男剛(たけし)さん=当時(14)=を亡くした相模原市の浦野憲敬(のりよし)さん(80)だ。
剛さんが亡くなったのは、「タワー」の練習中だった。肩を組んで円形になった生徒たちの上に、さらに他の生徒たちが立ち上がっていく四段のタワーで、完成すると高さは六メートルに達する。剛さんは二段目にいたが、全体のバランスが崩れて地面に落下。さらに胸の上に別の生徒が落ちてきて亡くなった。
剛さんはバスケットボールの強豪校への進学を希望しており、激しい運動にも慣れていた。母親の弘枝さん(81)は「まさか得意の運動で命を落とすなんて、本人は夢にも思わなかっただろう」と声を落とす。胸の辺りに血が広がった剛さんの体操服は、無念さを忘れないためにと憲敬さんがそのまま仏壇に納めた。
事故後、憲敬さんは学校側と話し合いを持ったが「一瞬の出来事だったので分からない」など、十分な説明は得られなかった。知人の美大生に粘土で小型の四段タワーを作ってもらい、力学の専門家に原因分析の調査を依頼すると、タワーのバランスが保てなくなると、内側に崩れ落ちるのは瞬時で、複数の教師が近くで見守っていても、事故を防ぐのはほぼ不可能という結論が得られた。憲敬さんは、群馬県桐生市で八三年に二段タワーから落下して頭部を打ち、死亡した小学六年生の女児の遺族にも面会。二度と事故を繰り返さないでほしいと本にまとめ、学校などに配った。
組み体操は、学習指導要領に含まれていないため指導のルールが明確になっていない。憲敬さんは「危険な組み方が教えられているケースも多い。高さ制限を設けた自治体もあるが、二段タワーでも死亡事故が起きている」と、あらためて警鐘を鳴らす。