(筆洗)しかし結局、懸命に守ろうとした子どもたちを、戦争に奪われることになる - 東京新聞(2017年9月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092202000146.html
https://megalodon.jp/2017-0922-1000-56/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092202000146.html

ブレヒトの戯曲『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の主人公アンナは、長く果てしなく戦争が続く十七世紀のドイツで、軍隊に付いて回っては、兵士らに酒や服などを売る行商人だ。
軍隊を相手に稼いでいるからこそ、悲惨でまやかしに満ちた現実がよく分かる。だから息子たちを決して軍隊に入れようとはしないのだが、徴兵に来た曹長に、こうたしなめられる。「お前は戦争を飯の種にしてるくせに、自分の身内はそこから遠ざけておこうって了見だろう?」(岩淵達治訳)
ほそぼそと稼いで糊口(ここう)をしのぐアンナと違い、大々的に軍隊を相手に稼いでいるのは、世界の軍事関連企業だ。米企業七社を含む上位十社の兵器の売上高は、二十兆円を超える。
来年度の防衛費の概算要求が五・二兆円と過去最大になった日本政府もその上得意だが、この国の公的年金の積立金を運用する組織が、これら上位十社の株を漏れなく保有し、時価総額が四千六百億円分にもなると聞けば、私たちも間接的ながら「戦争を飯の種にしてる」のではないか、との疑念がわく。
『肝っ玉おっ母…』のアンナは、「戦争を種に生きてく魂胆ならば、戦争にも見返りを収めるもんだ」と警告されながらも、「戦争は商売そのものさ」と言い、たくましく稼ぎ続ける。
しかし結局、懸命に守ろうとした子どもたちを、戦争に奪われることになるのだ。

肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)

肝っ玉おっ母とその子どもたち (岩波文庫)