(筆洗)映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、パリ近郊の高校で起きた実話から生まれた作品 - 東京新聞(2016年8月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016081002000129.html
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公開中の映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、パリ近郊の高校で起きた実話から生まれた作品だ。社会や学校から疎外されていらだち、ときに民族や宗教を背景にした憎悪をむき出しにする生徒たちに、先生が提案する。ホロコーストについて学ぼう。
なぜ、そんな過去の話を、と拒絶反応を見せる生徒たち。しかし、十五歳で強制収容所に送られ、家族を大虐殺で奪われた老人と会うことで、彼らの顔つきが変わる。
「なぜ生き延びられたのか」と問う生徒に、老人は語る。生きて友だちと再会してその体験を武勇伝として話し、「強い奴(やつ)だ」と認められたかった。「自慢でも何でもいい、ほんの些細(ささい)なことが生き抜くための力になるのだよ」
そんな言葉を聞くうち、昔話だった戦争の時代が、同世代の物語として生徒の前に立ち現れる。歴史が彼らの足元につながり、生徒たちの、今を見る目が変化していく。
被爆から七十一年。きのう長崎の平和祈念式典で読み上げられた「平和宣言」は、指摘した。<被爆者の平均年齢は八十歳を越えました。世界が「被爆者のいない時代」を迎える日が少しずつ近づいています。戦争、そして戦争が生んだ被爆の体験をどう受け継いでいくかが、今、問われています>
体験を受け継ぐことは、決して後ろ向きの営みではない。それは、今を変える「奇跡の教室」となりうるのだ。