(筆洗)詩集『たまどめ』 - 東京新聞(2016年5月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016050302000120.html
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わたしのつくるたまどめが
おおきすぎるといって
ひとにわらわれたことがありました
わたしがぬいものをすると
どんなにあらいざらし
ぼろぼろになってもたまどめはのこります


これは、島根に住む高橋留理子さん(65)の詩。高橋さんが今春、初めて出した詩集『たまどめ』(コールサック社)に収められている。世が世なら、と詩人はうたう。きっと私は、千人針を縫うのが上手だったでしょう、と。
戦争中、戦地に赴く夫や兄弟、息子たちのため女性たちは街角に立ち、布地に赤い糸で一人一針縫っては、玉結びをしてもらった。それが愛する人たちの身を守ってくれるはずと願ってのことだ。
しかし、あまりにも多くの命が戦場で散った。高橋さんの母の最初の結婚相手も、そんな一人だった。生後七カ月の息子を残し、フィリピンのルソン島で死んでしまったのだ。
悲劇は決して繰り返すまい。もう二度と戦争はすまい。六十九年前の五月三日に施行された憲法は、そういう誓いが結実した「大きな大きな、たまどめ」ではなかったのか。
高橋さんの詩は、こう結ばれている。


「おおきなたまどめは
しんぱいしょうのあかし…」
ひとはわたしをそういってわらいました
つくろいものをするとき
つい おおきなたまどめをつくっては
わたしのこころは
かなしみにふるえずにはいないのです