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自民党は9月13日、衆議院新潟第5区の補欠選挙(10月22日投開票)の公認候補に泉田裕彦前新潟県知事(54)を推すことを決めた。
報道では地味な扱いだったが、実はこれは今後の政局に大きな影響を与える事件だ。
支持率が大きく低下し、「安倍一強」の危機と言われるが、その最大の原因は、都議選大敗で、「選挙に強い安倍」というイメージが崩壊したことにある。
仮に、10月22日に青森、新潟、愛媛で行われる3つの衆議院補選で自民が1勝2敗以下の戦績となれば、「安倍ではもうダメだ」という印象を決定づけ、来年の総裁選の見通しは極めて暗くなる。逆に、3戦全勝となれば、「選挙に強い安倍」というイメージが復活するかもしれない。
補選が行われる3県はいずれも自民党が強い地方の選挙区だが、最近の新潟は例外だ。2016年夏の参議院選挙では、野党連合の森裕子氏に敗れ、また同年10月の新潟県知事選では、民進党抜きの弱小野党連合候補の米山隆一氏に大差で敗北を喫している。
泉田裕彦氏は、新潟県知事を12年間務めた実績もあり、抜群の知名度を誇る。しかも、保守政治家でありながら、脱原発の野党や左翼系の市民にまで幅広く支持されるスーパースターだ。安倍自民としては、喉から手が出るほど欲しい候補である。
民進党も、立候補を要請したが、あっさりと断られ、先の見通しは立っていない。
このまま行けば、新潟での自民党勝利は固い。愛媛と青森で1勝1敗なら、全体では2勝1敗の勝ち越し。うまく行けば、3戦全勝も視野に入って来る。■“反原発”とは言わない、実は「再稼働容認派」
泉田氏が自民から出馬と聞いて、「反原発の泉田氏が原発推進の自民から出るのはおかしい」と思った方も多いだろう。
私は、経済産業省時代に泉田氏と一緒に仕事をしたこともあり、彼が県知事なってからも折に触れて連絡を取ってきた。昨年の知事選前後も会食や電話などで連絡を頻繁に取った。
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ちなみに、最も重要なポイント、泉田氏の「再稼働反対は嘘だったのか」という疑問に対する言い訳が気になるかもしれないが、実は、その言い訳は必要なさそうだ。
なぜなら、泉田氏は、今も支持者たちに、「これまでの自分の考えは微動だにしない。現状での再稼働には反対だ」と言い続けているからだ。選挙中もそういう路線で行くのだろう。それなら、言い訳は不要だ。
自民党の政策との整合性が問われるが、実は、当選さえすれば良いというのが自民党の懐の深いところ。河野太郎外相も、大臣になる前までは、いつも原発反対と言う主張を繰り返していたが、党議拘束に反する行動さえしなければ、不問に付されていた。泉田氏が当選すれば、選挙期間中の発言がもんだいになることはないのだ。
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まず、泉田氏に自民党を変える力があるなどと言うのは幻想に過ぎないことは前述したとおりだ。
そして、何よりも、泉田氏が当選して誰が喜ぶのかを想像するべきだ。泉田勝利は、脱原発の野党候補敗北を意味する。
選挙後の安倍総理のコメントはこんなものになるだろう。
「わが自民党は、昨年、参議院選挙と県知事選で、新潟県民から大変厳しい審判を受けました。しかし、今回は、我々自民党の政策を新潟の方々に理解していただくことができた。心から感謝します。これまで通り、原子力規制委員会が安全だと判断した原発に限り、安全第一で、しっかり再稼働を推進して参ります。」
脱原発の最後の砦とも言われる新潟での自民党勝利は、全国の原発再稼働の流れを決定的なものにするだろう。
それだけではない。3補選で自民が2勝あるいは3勝すれば、安倍政権は息を吹き返す可能性が高い。
問題は、こうした複雑な状況を有権者が正しく理解して投票できるかどうかだ。選挙が近づくと、マスコミは当たり障りのない報道しかしない。泉田氏を支持するにしても、野党候補を支持するにしても、十分な情報が提供されたうえでの判断となるように期待しつつ、これから約1カ月後の開票日まで、新潟5区の動向を注視していきたい。