「新潟の乱」でバレた自民と民進の“赤っ恥”!=ジャーナリスト・鈴木哲夫 - サンデー毎日(2016年10月25日)


http://mainichi.jp/sunday/articles/20161024/org/00m/010/001000d

自民、民進両党の“弱点”をさらけ出した「新潟の乱」―。永田町では、年末年始の解散風が吹き始め緊迫しているが、内実をみると「安倍1強」に死角が、そして「民進党崩壊」が現実味を帯びるかもしれない。気鋭のジャーナリストがそのウラ事情を抉る。

  • ▼大迷走の「二階マジック」
  • ▼“選挙力”ダメ「蓮舫代表」に失笑
  • ▼安倍政権は「原発政策」連戦連敗
  • 野党共闘はどうなる

新潟県知事選挙は自民、公明両党が推して当選が本命視された森民夫・前長岡市長(67)が落選。共産党自由党(旧生活の党)、社民党の野党各党、市民連合(学者の会、ママの会など)が支援する米山隆一氏(49)が当選という、まさに「新潟の乱」が起きた。
そのウラ事情を取材すると、与党自民党、野党第1党の民進党がともに「赤っ恥」をかいたのだった。
今回の知事選は、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に慎重姿勢を示してきた前知事・泉田裕彦氏の不出馬で、複雑な様相を見せた。米山氏は次期総選挙の民進党候補だったが、今回、「再稼働に慎重」を掲げて立候補。ところが、民進党から離党届を出すように迫られた。
一体、なぜか。共産党など民進党以外の野党各党は、「安保法制」以来続けてきた野党共闘を当然模索した。事実、今夏の参院選新潟県野党統一候補で反原発森ゆうこ氏を野党4党で支えて勝利した。ところが、民進党蓮舫体制になった途端、本来なら野党協力のリーダー格として行動すべきなのに、米山氏にストップをかけて別行動を取った。
「一番の理由は、完全な内部分裂。民進党の支持団体・連合傘下の電力総連は原発再稼働を求め、森さんの支援を決めた。連合に気を使う蓮舫執行部は、米山さんの出馬を頑として認めなかった。野田佳彦幹事長も、早々と連合に自主投票を約束したと言われています。結局、米山さんは離党しての出馬となり、共産、社民、自由の野党3党と市民連合が推薦。当の民進党は自主投票となった」(米山氏支援の民進党議員)
だが、選挙戦は大接戦。終盤に入って期日前の出口調査などでは、米山氏がリードした。ここで、蓮舫氏が豹変(ひょうへん)。投票日2日前になって突然、応援に駆け付けたのだ。蓮舫氏周辺は「もともと蓮舫さんは、連合との関係で板挟みとなり、自主投票という苦渋の選択をした。だが、しがらみを振り払って米山氏を他党と一緒に応援、勝利に貢献できた」と解説するが、あまりにも虫がよすぎないか。
1カ月以上、米山氏を応援した市民連合幹部は怒る。
「なぜ、最初から野党統一に参加しなかったのか。勝ち馬に乗っただけでしょう。この選挙で、蓮舫代表の『選挙力』の欠陥を露呈しましたね」
連合の電力総連は原発推進派のため、地方選挙で「原発」が争点になった場合、同じような足並みの乱れは起きた。だが、前執行部はそれを乗り越えていた。
枝野幸男前幹事長や当時の岡田克也代表は、“内輪の論理”こそが党の欠点だと反省し、内部に反発はあっても野党協力を進めた。共産党は次の総選挙でも“統一候補”を立てると決めているのに、蓮舫代表や野田幹事長は新潟県知事選でその流れにブレーキをかけ、野党全体の士気を下げた」(民進党の前執行部幹部)
また、代表選で蓮舫氏を応援した中堅議員からは、
「彼女に期待したのは、選挙力。しかし、演説は派手で目を引くものの、選挙戦術はダメだということが分かった。今回も最初から野党統一を引っ張っていれば、高い評価を得ただろうし、野党統一の女性首相候補という流れができたはずだ」
と失望感を隠さない。
二階氏「何でもアリ」の大失敗
前出の市民連合幹部も、蓮舫氏の「選挙力」について、マスコミ各社が実施した投票日当日の出口調査を例に出して、こう話す。
民進党支持者の投票行動は、どの調査も約8割が米山さんに入れています。民進党が気を使った連合の票は、民進党の中でも2割しかないということ。執行部は正確な選挙分析ができておらず、支持団体の虚像に振り回されています」
一方で、敗北して「赤っ恥」をかいたのは自民党もそうだ。選挙を引っ張ったのは、二階俊博幹事長。
「勝つためには何でもアリの変幻自在」(自民党中堅議員)で、10月23日投開票の衆議院議員2補選では真骨頂を見せつけた。
自民党内で分裂選挙になった福岡6区は、事前に公認を出さず勝ったほうを追加公認することにした。両方の顔を立て、自民党議席は守るということだ。東京10区も都知事選で小池百合子知事とともに自民党に反旗を翻した若狭勝氏を公認。批判や異論があっても、勝つためには何でもアリの二階流は凄(すご)い」(同中堅議員)
ところが、である。
新潟では明らかに「油断」があったという。
「森さんの知名度は高く、敵方の連合も森支持。二階さんは楽勝と勘違いしたのではないか」(新潟県連ベテラン県議)
告示当日に行った自民党世論調査は、大差どころか「0・3ポイントに迫られる大接戦」(同)だったのだ。
「二階さんは新潟の建設業界などを引き締めたのですが、これまた地方の反応を理解していなかった。アベノミクスは大手ゼネコンだけが儲(もう)かって、地場の下請けはここ何年も潤っていない。二階さんが経済政策をぶら下げてテコ入れしても、地元の“建設票”は動かなかった」(同)
そして、二階氏の「何でもアリ」の大失敗は、安倍首相を地方選挙に巻き込んだことだ。
「二階流の奇策が裏目に出た。原発再稼働に慎重で政府与党と対立してきた泉田知事(当時)と安倍首相を会わせたのです。首相は泉田さんに『力を借りることもある。よろしくお願いしたい』と語った。二階さん自身も泉田さんと党本部で会って選挙支援を要請した。だが、こんな露骨なやり方に新潟の無党派が大反発、党内でも“やり過ぎだ”との声が上がった。二階さんの手法に不信感が残ったのです」(同)
当然、選挙後には“安倍首相の責任論”が問題になった。首相側近が言う。
「安倍首相が泉田さんと会うことには反対でした。なぜなら、もし敗北したら首相の責任になるからです。安倍首相も二階さんの手前、断りにくかったんじゃないか。でも、“原発”が争点になった地方選挙に首相を利用するのはやり過ぎです。官邸では、二階さんの選挙手法に警戒論が出ています」
別の自民党中堅幹部は、「新潟の敗北」は今後、原発政策にも影響が出るとして、二階氏にこんな注文を付けたという。
「新潟では参院選に続き、原発問題で連敗した。今後、“反原発知事”の鹿児島と新潟が連動する可能性も出てきた。二階氏は新潟の選挙をもっと重要視して取り組むべきだった」
かくのごとく、自民党も新潟では失態を演じたのだ。今後、総選挙への影響も出るだろう。
その解散・総選挙だが、永田町では安倍首相が「年末年始に断行するのでは」という情報が流れる。
首相周辺では、「早期解散を一番強く主張しているのは、麻生太郎・副総理兼財務相です」と話すのは、別の首相側近だ。
官房長官は「解散」に慎重
民進党の選挙態勢が整わないなか、日露首脳会談で北方領土問題が前進すれば、“解散・総選挙のベストタイミング”というのが、麻生さんの考え。かつて麻生政権時代、解散のタイミングを逃して政権から転がり落ちた。そのトラウマや反省から“チャンスがあればやる”という主戦論です」
一方で、慎重派は菅義偉官房長官だという。菅氏に近い自民党議員は「菅さんは、いくら民進党が体たらくでも野党共闘は進み、自民党は30議席から40議席は減らすという見立てだ」と話す。
菅氏は、ごく近い周辺に「解散ムード一色になりつつある。少し弱めなければ……」と周辺に漏らしている。実際、10月16日の講演では「解散風は偏西風みたいなもの。偏西風は1年間吹きっぱなし」と語った。
民進党は、党本部に「選挙力」のないことが新潟県知事選や衆院補選で明るみに出た。そのため、各候補は「解散風」に備えて大慌てだ。全国の党県連の会合では、年末年始の解散・総選挙に備え始めた。東海地区や東北地区などの県連は、「ポスターや事務所探しなどの下準備をする」(東海地区県連)ことと確認。落選中の候補者を集めて準選対会議が行われたところもある。
公明党幹部は「来年夏の都議選は、国政選挙並みの戦いとなる。その前後の解散は絶対に困る。2018年初頭には支持団体・創価学会の大きな行事などもある。それらを考えれば、解散は早いほうがいい。年末年始の可能性は五分五分だ」と話す。
いずれにしても、新潟県知事選で「油断」や「選挙力の欠如」をさらけ出した自民党民進党――。同じ過ちを繰り返すようであれば、次の大舞台の総選挙では「赤っ恥」では済まない。安倍長期政権は崩れ、民進党が崩壊するかもしれない。
(ジャーナリスト・鈴木哲夫)
サンデー毎日2016年11月6日号から)