「警察はより多く情報求める」 元公安警察・真田左近さん - 東京新聞(2017年7月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201707/CK2017071002000108.html
https://megalodon.jp/2017-0710-1856-42/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201707/CK2017071002000108.html

静岡県警で公安警察官だった経験のある作家の真田左近さん(48)=ペンネーム、同県在住=は、「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法の施行で、「警察によるIT監視や市民監視が強まるのでは」と問題点を指摘する。 (聞き手・土門哲雄)
共謀罪はテロ対策に役立つのか。
主にマフィア対策を目的とする国際組織犯罪防止条約に入るための立法。テロ対策との政府の説明は欺瞞(ぎまん)だ。テロ防止にあまり効果はないだろう。
−警察の監視は強まるか。
共謀罪は計画段階を捜査するので、監視強化につながる。米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員は、米国家安全保障局(NSA)が「エックスキースコア」というメールや通話などの大規模監視システムを日本に提供したと明らかにした。
日本の警察は視察(監視)対象団体の内部にいる協力者の獲得に労力を割いてきたが、難しくなっている。共謀罪導入で対象者の交友関係やコミュニケーションを把握するために、ますますITを活用した情報収集に軸足を移すだろう。
これまでも、捜査関係事項照会という形で通信会社やプロバイダー(接続業者)などから情報を得ることはできた。今後、令状に基づく通信傍受の対象をさらに広げたいはずだ。衛星利用測位システム(GPS)を使った捜査は最高裁判決で立法措置が必要とされ、警察は運用しやすい法律にしようとすると思われる。
−現場への影響は。
警察は共産党極左暴力集団右翼団体などを視察対象にしているが、それ以外の野党や市民団体などの情報も「幅広情報」として広く集めている。反原発運動もそうだし、SEALDs(シールズ)なんかも注意深く見ていたと思う。
共謀罪」法施行で「もっと情報を集めろ」という流れになるかもしれない。重要な情報は警察署から県警本部を経て警察庁に報告される。多く上げた署は点数が高くなる。成績が悪いと人事に反映されることもあり、ノルマのような形になる。より多くの情報を収集したがるのではないか。
共謀罪の危険性は。
冤罪(えんざい)が増える可能性はあるだろう。確かに、自首すると刑が減免されるため、密告が増えて捜査に役立つ可能性もある。しかし他の誰かを陥れるために虚偽の申告をしたり、容疑者とつながりのある無実の人に、警察が虚偽の自白を強要したりすることもありえる。
市民団体や報道機関には萎縮効果があるだろう。反対意見を言わせない、言いにくい社会をつくりたいという考えが、為政者側にはあるのではないか。

<さなだ・さこん> 1968年生まれ。大学卒業後、航空自衛隊を経て97〜2003年、静岡県警で主に警備公安部門で勤務。退職後に海軍の体質を批判する小説「蒼空の零 ソロモン征空戦」、警察の実態を描いた「Good Bye警察」などを出版した。