(「共謀罪」1年)懸念と疑問 残ったまま - 沖縄タイムズ(2018年7月13日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283043
http://web.archive.org/web/20180713045608/http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/283043

犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「改正組織犯罪処罰法」(共謀罪法)の施行から1年が経過した。
この1年間の適用事件は0件だった。野党などが昨年12月に「共謀罪廃止法案」を提出。今年7月10日までに18都道府県41議会が共謀罪の廃止などを求める意見書を国会に提出したほか、各地で市民団体による反対集会が開かれており、安易な共謀罪適用を許さないという国民の監視が届いた結果といえる。
共謀罪法を巡っては、自民、公明両党が参院法務委員会の採決を省略する異例の手続きで採決を強行。国会での論議を回避する形で成立し批判を浴びた。
法の中身についても多くの疑問が残ったままだ。共謀罪に問われる対象はテロ集団や暴力団などの「組織的犯罪集団」とされるが、参院で政府は「周辺者」も適用対象と説明した。一般人も含まれる懸念は拭えない。
対象犯罪は278に上るが、その中には組織犯罪と関係が薄いものも含まれる。それぞれの犯罪へ共謀罪を適用する必要性の説明も尽くされたとは言いがたい。
それどころか国会審議中には、共謀罪法の目的を問う質疑に金田勝年法相(当時)の答弁が二転三転し、疑念を一層深めた。
安倍晋三首相は昨年の通常国会閉会後の会見で共謀罪法について「必ずしも国民的な理解を得ていない」と認めたが、その後も理解を得るような策が講じられる様子はない。

■    ■

そもそも共謀罪法はなぜ必要なのか。根本の疑問もいまだ解消されていない。
政府は、東京五輪開催を控え「国際組織犯罪防止(TOC)条約」を締結するための国内法整備を根拠の一つに挙げた。共謀罪法の施行を受けて条約締結。菅義偉官房長官は「国際捜査共助や逃亡犯罪人の引き渡しを相互に求められるようになった」と成果を強調する。
一方、日本弁護士連合会は昨年、TOC締結の要件である「重大な犯罪の合意」などの犯罪化について、現行刑法ですでに規定されていると指摘。条約を締結した187カ国のうち、新法を制定した国は欧州2カ国に限られるとし「共謀罪新設は必要なし」との意見書を提出している。
現行法で限定的な「合意」の犯罪化の適用を大幅に広げた共謀罪。警察など捜査機関が乱用すれば、日常的に、政府に反対する市民団体を監視する法的根拠ともなりかねず懸念される。

■    ■

県内では3月、新基地建設に反対する市民団体のリーダーらが、公務執行妨害や威力業務妨害の罪などで有罪判決を受け、その後控訴した。捜査過程ではリーダーらが5カ月間にわたって拘留されるなど、市民運動を萎縮させる狙いをうかがわせる対応が目立った。
まして捜査当局による共謀罪運用の実態をチェックする仕組みはない。捜査権限が無制限に拡大する危険性は残ったままだということを、忘れてはならない。