エリート裁判官たちはこうして自分たちの利権を守った(岩瀬達哉さん) - 現代ビジネス(2017年7月2日)

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52120

司法制度改革が骨抜きになるまで
かつて、裁判官の「特権」に、メスを入れようとする動きがあった。その急先鋒となったのは、元最高裁長官。しかし、現役裁判官たちは、強く抵抗を続けた。それだけ、裁判所の「既得権益」は大きいのだ。

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小渕首相が生きていれば……
「矢口さんは、後輩の佐藤幸治さんを呼んで、『運命や。お前、やれ』といって会長に押し込んだ。弾き出された竹下さんは、会長代理となるのですが、その人事は、中坊さんが小渕内閣官房副長官だった古川貞二郎さんを通じてまとめたと、ご本人から聞きました」

また法務省が、中坊を取り込もうと赤坂の料亭で接待したことがあった。中坊は、嬉々としてその誘いに応じ、翌日には接待の詳細を、新聞記者に暴露。法務省に赤っ恥をかかせるとともに、余計な働きかけを封じ込める策士ぶりを発揮した。

「司法制度改革審議会」で議論されたのは、「法曹一元」のほか、「司法試験合格者の大幅増員」や「裁判員制度の創設」など、大きく3つのテーマに分かれていた。

中でも「法曹一元」に関する議論は最も激しく、審議会では、毎回のように中坊と、元広島高裁長官で委員の藤田耕三が、喧嘩腰でやりあった。それは弁護士会最高裁の代理戦争でもあった。

かりに、「法曹一元」が実現すると、法曹経験が10年以上の弁護士や検事から裁判官を任命することになる。

新任裁判官を判事補として10年間教育するという、現行の「判事補制度」は廃止を余儀なくされ、毎年、90名近く採用していた新人裁判官の受け入れもできなくなる。

裁判所にとってみれば、それだけ予算が削減されるうえ、新人の裁判官で埋めていた地方裁判所にベテランを送り込まなければならない。

組織運営が非常に困難になるうえ、なにより外部から多数の法曹経験者が入ってくることで、組織のピラミッド構造を維持できなくなる。

最高裁長官を頂点とする、高額給与や退職金の支給モデルに加え、退職後の老後の生活設計も根本的に変えざるをえなくなるのである。

2000年3月、中坊が、小渕内閣内閣特別顧問に就任したことで、最高裁は大いに慌てた。悪夢とも言うべき「法曹一元」が、がぜん現実味を帯びてきたからだ。

「この後、中坊さんの頑張りもあって少数派の日弁連の意見が通るようになりましたから。僕だって、これで法曹一元は実現すると期待した。

ところが、その1ヶ月半後に小渕さんが脳梗塞で倒れ、急逝された。このあとの最高裁の巻き返しというのは、すごいものがありました」