私説・論説室から)時計の針を - 東京新聞(2017年7月3日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017070302000125.html
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十数年前のこと。沖縄で出会った女性は「平良堀(たいらぼり)さん」という初めて聞く名字だった。「珍しい名前ですね」と言ったところ、彼女は「夫の姓の『平良』と私の旧姓の『堀』を合わせた」と由来を説明してくれた。
外国では夫婦の姓を合わせて名乗れる国があるのを知っていたが、日本では聞いたことがない。彼女は「もちろん法律にはないわ。私が勝手にそうしているのよ」と笑った。
憲法は両性の平等をうたう。でも民法は結婚後の姓について一方の姓を名乗るよう規定する。夫の姓を選ぶことが当然のようにとらえられている中で、当時、六十代後半だった彼女が名前の上でも夫婦対等でありたいと語ってくれたのは、とても新鮮だった。
法制審議会が女性に差別的な民法を改めるため、選択的夫婦別姓制の導入を求めたのは一九九六年。その後も法改正されず、別姓を求める人々が夫婦同姓の規定が違憲だと争った夫婦別姓訴訟では一昨年、最高裁大法廷が「旧姓使用が広がることで不利益は一定程度緩和される」と、規定を合憲とした。時計の針が巻き戻されるような判断だった。
その最高裁が、全国の裁判官たちが希望すれば結婚前の旧姓で裁判できるように運用を改める。だが、旧姓使用を認める動きが職場などで広がっても、それは組織が裁量として認める特例だ。ふるいにかけられる多くが女性であることを忘れたくない。 (佐藤直子