(筆洗)「完璧でなければ役に立たないという完璧主義者は結果として何も物事が進まないまひ状態に陥らせる」 - (2019年8月28日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019082802000117.html
http://web.archive.org/web/20190828015129/https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2019082802000117.html


赤塚不二夫さんの「天才バカボン」に見開き二ページ分を使ってバカボンバカボンのパパの顔のアップだけを続けて描いた回がある。赤塚さんいわく「これぞ実物大漫画なのだ」
なるほど迫力があるし、登場人物の見慣れぬ大きさにナンセンスさも際立つ。当時、実験的と評判になったが、裏話がある。実は原稿の締め切りに迫られての窮余の策だったそうだ。大きく描けばその分ページが稼げる。
これも締め切り間際の窮余の策なのだろうか。いつもに比べあっさりしている。先進七カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕の土壇場でまとめた「首脳宣言」である。
わずか紙一枚。サミットの成果文書としては異例の短さである。自由貿易やイラン問題などでの米国と欧州の対立に加え、欧州内も足並みがそろわぬ状況とあっては、従来のような包括的な首脳宣言をまとめるのは、やはり困難だったか。
それでも労をねぎらうべきは参加国の一致点をぎりぎりまで模索した議長国フランスのマクロン大統領だろう。紙一枚とはいえG7としての「成果」をあきらめなかった。
「完璧でなければ役に立たないという完璧主義者は結果として何も物事が進まないまひ状態に陥らせる」。チャーチルの言葉という。完璧ではないかもしれぬが、締め切りぎりぎりのその紙一枚がG7を何とかつなぎとめた。大きな意味を持つ窮余の策だろう。