(余録)1905年夏、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世とロシア皇帝ニコライ2世は… - 毎日新聞(2017年2月14日)

http://mainichi.jp/articles/20170214/ddm/001/070/199000c
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1905年夏、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世とロシア皇帝ニコライ2世はフィンランドのビヨルケで秘密会談をした。いとこ同士だった2人は日露戦争後の欧州での独露同盟協約で個人的に合意し、互いに大喜びでそれぞれの首都へと帰った。
だが待っていたのは臣下の大臣の大反対だった。とくにニコライは日露講和にあたったウィッテに諫(いさ)められ、協約は無効となる。両皇帝には屈辱的な結果だったが、たとえ帝王だろうと、個人の気まぐれや思いつきで一国の外交を左右できる時代ではなくなっていた。
さて今、気まぐれや思いつきに走りかねない「帝王」で思い浮かぶのはやはりあの人である。だが安倍晋三(あべしんぞう)首相との親密さをアピールした日米会談、そしてゴルフ外交でのトランプ米大統領は選挙中とはうって変わって従来の日米同盟の枠組み継承を強調してみせた。
それに先立つ中国の習(しゅう)近平(きんぺい)国家主席との電話協議では「一つの中国」政策の維持を表明した大統領である。ことと次第では東アジアの安定を大きく損ないかねない政策変更の脅し文句は影をひそめた。ことアジア外交・安保分野では帝王の諫止(かんし)役が一働きしたようだ。
そんなトランプ外交を見定めての発射再開かと思わせる北朝鮮弾道ミサイルには、米国と周辺諸国の新たな連携が形成されよう。欧州やロシア、中東などへの政策はなお不透明なトランプ政権だが、東アジアの成り行きを見てホッとしている国々もあるに違いない。
米大統領にとって外交は議会や司法のチェックがきかない「帝王」的権力の振るいどころという。「諫臣」の力量が試される21世紀の国際政治である。