(私説・論説室から)大人の足の林のなかで - 東京新聞(2017年1月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2017013002000141.html
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トランプ氏がアメリカの第四十五代大統領に就任した翌日、首都ワシントンに呼応してシカゴで開かれた集会「女性たちの行進」に参加した知人が写真を送ってくれた。八歳になるお孫さんがプラカードを掲げる姿だ。
ハートや花の絵で飾ったプラカードには「Love, not hate, makes America great」とある。「憎しみではなく愛こそがアメリカを偉大にする」といった意味だ。「偉大な」とはトランプ氏がよく口にする言葉で、少女はそれを意識しながら移民の排除や女性差別をあからさまに言う大統領に「ノー!」を表したのだった。
二十五万人に膨れた参加者には幼子や赤ちゃん連れもみられた。プラカードはアメリカ社会が抱えるあらゆる問題を訴え、人々は高架に電車が通るたびにそれを高く揺らす。地鳴りのような歓声。笛を鳴らす運転手、手を振る乗客。大人の足の林の中で一時間半の道を歩いた少女は初めてのデモが気に入った。
知人は言う。この抗議はアメリカが自国や他国の民衆に犯した弾圧や差別、侵略の歴史にも向けられていたと。「私たちはこの暴力の継続を認めないという意志を表明したのです。アメリカのいちばんいい姿をみた一日でした」。これからどんな国へと進むのか、不安はあるが希望は失っていない。
翻って日本は−。自分の意志を表現し、歩く。少女は私に勇気をくれた。 (佐藤直子