やまゆり園事件からきょう半年 「共生」めぐり揺れる再生 - 東京新聞(2017年1月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017012602000130.html
http://megalodon.jp/2017-0126-1026-25/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201701/CK2017012602000130.html

入所者十九人が刺殺された相模原市緑区知的障害者施設「津久井やまゆり園」の事件は二十六日、発生から半年を迎えた。神奈川県は現地で施設を建て替える方針を決めたが、山あいという立地条件に「共生の理念に反する」「時代錯誤だ」と専門家や障害者団体から異論が相次ぐ。障害者の暮らしの在り方を巡り、波紋が広がっている。(梅野光春、原昌志)
「建て替えでは、障害者を隔離したままになる」。浦和大特任教授の河東田(かとうだ)博さん(68)=障害者福祉学=は、事件をテーマにした二十六日の集会で、こう主張するつもりだ。
障害者は近年、街中にあるグループホームで暮らす傾向が強まっている。入所者は十人以下と小規模。近所の商店や公園に気軽に立ち寄るなど、地域に溶け込んで生活できる。
一方、一九六四年に開設されたやまゆり園は、最寄りのJR相模湖駅から二キロ離れた山あいにある。定員百六十人と大規模で、今月二十五日時点では他施設で暮らす三十七人も含め、九十九人が在籍する。
黒岩祐治知事は事件後、建物を取り壊し、現地で建て替えることを決定。今月六日に発表した案では、塀をなくして地元との交流を進めつつ、定員は百人以上の規模を維持する方針を示した。費用は六十億〜八十億円、二〇二〇年度の完成を見込む。
しかし県が十日に開いたヒアリングでは、山あいの大規模施設の再建に、専門家や障害者団体から「時代錯誤だ」と批判が続出した。入所者本人の意思確認が不十分との指摘もあった。
県の担当者によると、先月末から本人への聞き取りをした結果、全体の二割が「園に残る」、一割は「出たい」と答えたが、三割は意思確認ができず、ほかの三割は「グループホームを知らないから分からない」という状況だった。
こうした中、横浜市の約百十の団体が所属する横浜知的障害関連施設協議会は「入所者が自分らしい生活を送る受け皿を用意したい」と、グループホームなどに受け入れる準備を進める。今月中にも具体的な計画を発表する予定だ。
ただ、入所者の家族会の大月和真会長(67)は二十四日、本紙の取材に「家族会には、事件前の落ち着いた生活に早く戻したいという意向が強い」と語った。施設については、小規模では担当者が入れ替わるなど支援の質が下がる恐れを感じるとし、「やまゆり園のような入所施設の方が安心だ」と現地建て替えを望む。
黒岩知事は二十五日の会見で「家族会などの痛切な声を聞き、原状復帰が大事だと決断したが、拙速と言われれば拙速」と経過を振り返った。「しっかり議論して、みなさんが納得できる着地点を探りたい」と、慎重に検討を進める意向を示した。

<相模原殺傷事件> 2016年7月26日、相模原市緑区知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々と刃物で刺され19人が死亡、職員3人を含む27人が負傷した。殺人や殺人未遂容疑などで逮捕、追送検された元施設職員植松聖容疑者(27)について、横浜地検が事件当時の精神状態を調べるため、2月20日まで鑑定留置を実施する。