年頭会見 首相自ら「変化」する年 - 毎日新聞(2017年1月5日)

http://mainichi.jp/articles/20170105/ddm/005/070/130000c
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安倍晋三首相は年頭の記者会見を行い、米トランプ政権誕生などの国際情勢を踏まえ「変化の一年が予想される」と強調した。
国際情勢が転機を迎える年だけに、安倍政権にも従来にない発想が求められる。経済政策などの実績を十分検証し、外交、内政とも変化に対応できる柔軟さを求めたい。
首相は2005年の「郵政解散」や1993年の自民党野党転落を引き合いに「酉(とり)年は政治の転換点となってきた」と語った。欧州の選挙イヤーや英国の欧州連合(EU)離脱
交渉なども念頭に、変化への備えを説いたということだろう。
外部環境の急変への対応はもちろん大切だ。ただ、政権に復帰してから5年目を迎え、安倍内閣も政策を再点検する時期を迎えている。
経済政策に関し首相は「(先が見えない時こそ)大切なことはぶれないことだ」と述べ、経済最優先を継続して金融緩和、積極財政など従来路線を維持すると強調した。だが、デフレ脱却に向けて掲げた2%の物価上昇率などの目標は、達成には遠い状況にある。
だからこそ、首相自らも「変わる」ことが必要になる。
首相はこのところ、同一労働同一賃金など「働き方改革」に傾斜している。それ自体は大切だが、4年間の検証を脇に置いたまま施策の上書きを重ねている印象は否めない。
2度にわたり消費増税は見送られ、税と社会保障の一体改革は大きく揺らいでいる。長期政権を展望しているのであれば、安定した年金制度の構築などにこそ、力を注ぐ責任があるはずだ。

憲法改正問題も同様である。
首相は今年が日本国憲法施行70年である点を指摘し「次の70年を見すえながら新しい国づくりを進めるときだ」と語った。改憲論議を加速させる意欲をにじませたとみられる。
だが、自民党内にはいまだに「押しつけ憲法論」に基づく古い改憲論議が根強い。国家主義的で復古調の色彩が濃い自民党改憲草案の扱いも結局は、はっきりしていない。憲法改正の議論を進めたいのであれば、自民党総裁として議論のスタンスを見直し、野党の意見にも耳を傾けるべきだろう。
次の通常国会で、政府は天皇陛下の退位のご意向を踏まえた法整備を検討している。首相は「政争の具としてはならない」と民進党などをけん制したが、国民や政党間による幅広い合意形成が必要な課題である。
首相が野党の主張に聞く耳を持たないような場面が昨年は多かった。野党の力も生かして政策判断に厚みを持たせられるよう、変化の年こそこころがけるべきだ。