美浜3号運転延長認可 かすむ「福島事故」の教訓 - 福井新聞(2016年11月17日)

http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/editorial/109088.html
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【論説】原子力規制委員会は、運転開始から40年を迎える関西電力美浜原発3号機について最長20年の運転延長を認可した。関電高浜1、2号機に次いで国内2例目だ。改正原子炉等規制法で定める「原則40年」ルールは骨抜きにされ、高経年炉の延命が定着しつつある。安定電源確保と収益増に必死の国、電力業界。果たして東京電力福島第1原発事故の教訓は生かされているのだろうか。
とりわけ美浜3号機は2004年の配管破断事故で作業員11人が死傷。原発の安全性が根本から問われたプラントである。世論の視線は一層厳しく、原発反対住民らは運転停止を求めて訴訟を起こす構えも見せる。関電は安全の根拠を立地地元だけでなく、県民に対しても明確に示すべきである。
美浜3号機は昨年3月に安全審査を申請。手続きに手間取った関電に対し、厳格であるべき規制委が時間切れを恐れて急がせるという本末転倒の状況の中で新規制基準をクリアした。
審査では特に耐震性が重視された。基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)が見直され、最大加速度は従来の750ガルから993ガルへと大幅に引き上げられた。規制委が断層を浅く設定、複数連動も考慮するよう要求したからだ。
想定に甘さがあった関電は耐震設計の見直しを迫られ、使用済み燃料プールの燃料収納容器を固定せずに揺れを吸収する免震型に変更した。国内初の構造であり、非常時に安全が確保されるか不安は残る。
規制委が使う地震の揺れの想定法に関して、島崎邦彦・前規制委員長代理が「過小評価」の可能性を指摘した点も審査の信頼性が揺らぐ一因ではないか。
さらに、古い原発特有の課題として全長約千キロの電気ケーブルに防火対策を施す困難な作業もある。重大事故時の緊急時対策所の新設などと合わせ工事費は約1650億円に達する。
関電は特別点検を実施しプラントの安全性は「高い水準」と自己評価した。だが、12年前の配管破断事故は点検から漏れた箇所の経年劣化が原因だったことを忘れてはならない。交換できない圧力容器が劣化する「中性子照射脆化」も無視できず、古い設計思想の原発に過信は禁物だ。ヒューマンエラーを含め監視体制の強化を求めたい。
これまで関電美浜1、2号機、日本原電敦賀1号機など5原発6基の廃炉が決定した。いずれも出力35万〜55万キロワット程度。美浜3号機は82・6万キロワットある。関電は運転36〜37年の大飯1、2号機(いずれも出力117・5万キロワット)も運転延長を検討中だ。費用対効果に見合わない原発は淘汰(とうた)される一方、原則40年が腰砕けになっていく。
美浜3号機の工事完了は20年春ごろの見込み。再稼働はそれ以降となるが、1、2号機の廃炉で財政、経済が先細りする地元にとっては朗報だろう。だが「ポスト原発原発」というジレンマから抜け出せない状況では、自立した未来が見えにくいのではないか。