参院定数訴訟 是正は国民への約束だ - 朝日新聞(2016年11月13日)

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ことし7月にあった参院選のいわゆる一票の格差をめぐる裁判で、一審を担当した延べ16の高裁の判断が出そろった。
鳥取・島根と徳島・高知をひとつの選挙区にする「合区」を行うなど10増10減の定数是正を実施し、それまで約5倍あった最大格差を3・08倍におさえたうえでの選挙だった。
それでも12の判決が「違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態にあった」「看過し得ない程度に達している」と判断した。残りの判決も問題なしとしたわけではなく、「いまだ不十分」「さらなる縮小が図られるべきだ」などと批判している。
国会はこれらの指摘を重く受けとめる必要がある。
政権の姿に直結する衆院ならともかく、なぜ県の枠を超える合区までして投票価値の平等を追求するのか。3年ごとに半数が改選される参院特有の事情を踏まえ、以前は緩やかな判断をしていたはずだ。そんな疑問を抱く人もいるかもしれない。
しかし憲法は、衆参両院の議員について、地域や団体の代表ではなく「全国民の代表」とさだめている。首相の指名など一部をのぞいて、参院衆院とほぼ同等の権限をもつ。解散はなく、任期は6年と安定しているため、長期的な視点で課題に向きあうことができる。
こうした点を踏まえ、司法は「急速に変化する社会情勢のもと、国政における参院の役割はこれまでにも増して大きくなっている」と評価し、民意が適切に反映されることをより厳しく求めるようになった。もっともな見解であり、社会全体であらためて確認・共有したい。
自民党内には、改憲によって参院議員に地域代表の性格を与え、格差を許容する選挙制度にする案が浮上している。合区解消につながり、一定の支持を得られると考えているようだ。
本気でとり組むのなら、参院の権限や機能の見直しは避けられない。自治体との関係も議論する必要がある。民主制の根幹に関するテーマについて、広範な合意を形づくる理念も展望も不明なまま、改憲の糸口に定数問題を利用しようという姿勢は厳しく批判されるべきだ。
昨年夏、10増10減の法改正をした際、国会みずからが当座の措置であることを認め、公職選挙法の付則に、19年の次期参院選にむけて選挙制度の抜本的な見直しを検討し「必ず結論を得る」と書きこんだ。
これは国民に対する重い約束である。今後に示される最高裁の判断がどうなるかにかかわらず、議論を急がねばならない。