大学入試改革 記述式、多角的検討を - 朝日新聞(2016年11月8日)

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大学入試センター試験に代わり、2020年度に始まる新テストで導入する国語の記述式問題について、文部科学省が実施方法の案を示した。
共通テストで記述式を出し、できるだけ多くの大学に利用してもらうことで高校教育を変え、生徒の思考力や表現力を高める。それが文科省の狙いだ。
だが案はいかに大学に使ってもらうかを考えるあまり、効果や負担の吟味が後回しになっていないか。もっと多角的に検討してほしい。
公表された案はこうだ。
記述式問題を2種類出題し、解答文字数が80字より多い問題と、40〜80字の短文で難度の下がる問題を盛り込む。
受験生は志望校の指定に従い、いずれか一つか、または両方を答える。
80字より多い問題は利用する大学が、短文の方はセンターが委託した民間業者が採点する。
これまで文科省は大学採点方式を中心に検討してきた。今回、文字数を明らかにし、民間採点方式を加えたのは大学の負担を軽くし、私立大などに広く使ってもらいたいからだ。
しかしその案も課題が多い。
40〜80字でどこまで思考力や表現力を問えるのか。文科省は多くの問題例と採点基準を公表し、議論の素材を大学や高校に示してほしい。
採点の民間委託も問題をはらむ。採点の質は確保できるか。ミスがあった場合、どう責任を負うのかも不透明だ。
肝心の受験生の立場での検討も十分ではない。受験生は2種類の問題を前に混乱しかねない。記述式は自己採点がしにくく、各大学の2次試験の出願先選びを迷いそうだ。
検定料も民間委託の経費を転嫁するなら、受験生は新たに課される予定の英語4技能の資格・検定試験の受検料に加え、負担がさらに増す。
同時に考えねばならないのは、個別試験との役割分担だ。
記述式は様々な観点での採点基準がありえ、大学が個別試験で出すのがふさわしい。
大学の中には、2次試験で理系でも長文の記述式を課すことを検討するなどの動きがある。そこに共通テストの採点を求めるなら、採点者が確保しにくくなる。共通、個別試験全体で改革を進める必要がある。
大学入試を行うのは文科省ではなく、大学である。大学の多様性と自主性を踏まえ、国はどう方針を示すべきか。文科省は実施方針を来年度初頭に公表する予定を変えていない。拙速ではない検討を望みたい。