憲法公布70年  守り、守られる関係こそ - 京都新聞(2016年11月3日)

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その日の京都新聞1面のトップ記事は「日本国民の大きな歓喜と深い決意を込めて、新憲法公布の意義深い式典は…」と書き出す。
70年前のきょう、日本国憲法が公布された。国民主権(民主主義)、基本的人権、平和といった理念は、暗く息苦しい戦争の時代をくぐり抜けた当時の人々にまぶしく見えたに違いない。
京都市内では府知事や市長も列席した公布記念式典が大々的に開かれた。府内各地で憲法を解説する講習会や、移動映画、紙芝居、チラシ配布なども行われた。
当時の興奮を想像すれば、憲法が国民の意に反してGHQ(連合国軍総司令部)に「押しつけられた」とする論がいかに表面的かが分かる。京都市出身で、内閣法制局参事官として憲法制定過程に深く関わった故佐藤功上智大名誉教授も、押しつけ憲法論は「愉快ではない」と憤っている。
憲法解釈の第一人者だった佐藤氏が青少年向けに書いた「憲法と君たち」(時事通信社)がこのほど復刻された。憲法がやぶられる場合について言及している。
<国会や内閣が、事情が変わったということで、また、へりくつをつけて、作られたときとは別のように憲法が解釈され、無理やりにねじ曲げ>られてしまう。そのやり方は<多数党が、少数党の反対の意見など初めから聞こうともせず、ろくに議論さえもしないで、数で押し切ってしまう>と。
まるで現在の政治状況を予知していたかのような卓見である。出版は、自民党が結党された1955年。復古的な改憲論が現れ、護憲派と世論を二分していた。そうした状況も現在と重なる。
愛国心や公共精神の強調(教育基本法改正)、知る権利の制約(特定秘密保護法)、集団的自衛権の行使容認(安全保障関連法)…。延べ5年近い安倍晋三首相の在任中、憲法の理念にそぐわない法律がさまざまな「へりくつ」を付けて与党の数の力で成立した。そして今、憲法自体の改正が現実味を帯びる。
佐藤氏は改憲の可能性を認めつつ、戦争の犠牲の上に築かれた憲法の民主主義、基本的人権、平和という3原則は「どうしても変えてはならない」と訴える。信じ難いが、改憲草案をめぐる自民党内の議論では3原則に批判が相次いだ。そうなれば憲法の改正ではなく破壊である。
 佐藤氏は著書の末尾に記した。<憲法が君たちを守る。君たちが憲法を守る>。憲法と国民が、ずっとそんな関係であり続けたい。