欧州難民危機 世界で向き合いたい - 東京新聞(2016年10月5日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016100502000141.html
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国民投票は、欧州連合(EU)が決めた難民受け入れ分担の是非を問うために実施した。分担反対は98%に上ったが、投票率は40%で過半数に満たず国民投票は不成立となった。反難民一色の世論ではなかった。ハンガリー政府の思惑ははずれた。
しかし、難民問題が決着したわけではない。
EUの分担策は、シリア内戦などを逃れ、ギリシャやイタリアからドイツを目指そうとする難民十六万人を、経済力に応じ加盟国で分担して受け入れる。
難民に対する人道的対応を、秩序立てて進めるための例のない試みだ。
ハンガリーはじめ中東欧諸国は難色を示している。社会主義時代以来、移民や難民に慣れていない背景もあるが、歩み寄ることはできないか。
EU加盟では経済的恩恵とともに、人道重視と多文化共存の価値観も共有したはずだ。
寛容な難民受け入れを進めてきたドイツでも先月、二つの州議会選で、メルケル首相率いる「キリスト教民主同盟」が得票率を減らし、反難民を訴える「ドイツのための選択肢」が躍進した。
首相は選挙後の会見で「できるなら時の流れを逆回転させ、事態の進展にしっかり備えたかった」と述べ、十分な準備がないまま難民を招いたと認めた。これまでにない弱気な発言だった。
殺到したのは約九十万人。難民申請者が関わった事件やテロが続発して難民への反感は強まり、首相への不満は募っている。
難民の保護請求権は、ナチスへの反省から基本法憲法)にも盛り込まれている。難民歓迎の熱気はうせ、現実とのギャップも大きいが、治安対策の強化、不法移民との線引きなど、問題点も見えてきた。現実に即した寛容政策を貫いてほしい。
難民受け入れ国は欧州や中東諸国に集中している。先月の難民サミットでオバマ米大統領は国際社会の分担を求めたが、大半の国は数値目標を示さなかった。
日本は資金拠出や受け入れ国への支援を表明したが、実際に受け入れている難民はわずかだ。受け入れ拡大の適否を含め、難民にどう向き合っていくのか考えたい。