内閣法制局 安保法決裁「5月0日」 文書ずさん記載 - 毎日新聞(2016年9月26日)

http://mainichi.jp/articles/20160926/k00/00m/040/123000c
https://megalodon.jp/2016-0926-0831-38/mainichi.jp/articles/20160926/k00/00m/040/123000c


昨年9月に成立し、今年3月に施行された安全保障関連法を巡り、昨年5月に政府が同法案を閣議決定する前に内容を審査した内閣法制局が、法案の扱いを記録した公文書で、審査を終えて決裁した日を「5月0日」とするなど、ずさんな記載をしていたことが分かった。法制局はすでに修正しているが、毎日新聞の取材に経緯の説明を拒んでいる。【日下部聡】

内閣法制局は、法案や政令案が内閣の閣議で決められる前に、憲法や既にある法律と矛盾がないかを審査する。安保関連法案は昨年5月14日に閣議決定され、国会に提出された。

問題の公文書は「公文件名簿」と呼ばれる。審査のため各省庁から送られてきた法案や政令案について、それぞれ(1)受付日(2)決裁日(3)審査した後に内閣に送付した進達日(4)閣議にかけられた日−−や、審査担当参事官名などを記録し、一覧表にしている。30年間保存される重要な公文書だ。

問題の記載は、障害者支援にかかわり、国や自治体の財政などについて個人で調査する富山市の吉田憲子さんが見つけた。法案審査の経緯を知ろうと昨年9月に情報公開請求し、翌10月に昨年分の公文件名簿が開示された。その中で、安保関連法案のみ▽受付日が空欄▽決裁日は「5月0日」▽進達日は空欄−−となっており、「法律」なのに「政令」にマルがついていた。吉田さんの問い合わせに、法制局は「担当者のミス」と説明したという。

毎日新聞が今年5月に同じ文書の開示を受けたところ、受付、決裁、進達は法案が閣議決定された「5月14日」とするなど記載はいずれも修正されていた。

ずさんな記載の経緯や理由について、公文件名簿を管理している内閣法制局総務課は、取材に「開示請求した人以外の問い合わせには答えられない」と回答を拒否している。

内閣法制局の「行政文書取扱規則」によると、法案や政令案は総務課が受け付け、内閣に送付した日(進達日)は審査担当部からの連絡を受けて総務課の担当者が記入する。

異例の閣議当日審査
毎日新聞が入手した修正後の文書では、内閣法制局は昨年5月14日に法案審査を受け付けて直ちに決裁し、政府が同じ日に閣議決定していた。

他の法案とは異なるスピード決裁で、安保法制を巡る法制局の手続きに疑問の声が出ている。

入手文書によると法制局は昨年1年間に80件の法案を審査した。実質的な審査は「予備審査」という形で正式の受け付け前に終わらせておくのが慣例だが、安保関連法案以外は受け付けから閣議決定まで数日を要し、記載の誤りもなかった。

一連の経緯について、法制局の元官僚は取材に「これは変だ。どうしてこんなことになるのか」と首をかしげた。

問題の記載を見つけた吉田憲子さんは「法制局上層部で話が進められ、担当者は記入のしようがなかったのではないか。正規の手続きを経ていないとの疑いを抱かせる」と話す。

法制局は、情報公開請求者以外からの問い合わせには応じないとして取材を拒否しているが、情報公開法にそのような規定はない。国の情報公開制度を所管する総務省情報公開推進室は「開示文書は誰にでも平等に開示される。第三者の問い合わせに答えても問題はない」との見解だ。

安保法制への法制局の対応では、政府の集団的自衛権行使容認の閣議決定(2014年7月)に必要な憲法9条の解釈変更を巡り、局内部での検討過程を公文書に残していなかったことが発覚。横畠裕介長官は国会で、解釈変更について局内で議論したが反対意見はなかった−−と主張しているが、それを裏付ける記録はない。

【ことば】安全保障関連法
憲法解釈の変更による集団的自衛権行使容認や国連平和維持活動(PKO)拡充を柱とし、自衛隊法など10の法改正を一括した「平和安全法制整備法」と、自衛隊による他国軍の後方支援を認める「国際平和支援法」からなる。安保関連法のもと、踏み込んだ武器使用を認める駆け付け警護の任務が年内にも南スーダンPKOで自衛隊に課される。