天皇の生前退位 丁寧な法的議論が必要 - 毎日新聞(2016年9月20日)

http://mainichi.jp/articles/20160920/ddm/005/070/075000c
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政府は天皇陛下生前退位に関する有識者会議を設置し、国民的な議論に乗り出す。安倍晋三首相が26日召集の臨時国会所信表明演説で明らかにする見通しだ。
世論調査によると、天皇生前退位を国民の大多数が支持している。だが、それを法的にどう位置づけ、実現するかは定まっていない。丁寧な議論が必要である。
安倍首相は議論の対象を皇室制度全般には広げず、生前退位に絞って議論したい意向のようだ。このため政権内では陛下一代に限定した特別立法が検討されているという。
ただし、この問題を論じれば、皇室の規約を定める皇室典範で男系男子だけに認められた皇位継承制度や、女性皇族の皇籍離脱による皇族減少などに行き着く。
これらの課題は皇室制度を大きく変えるため、皇室典範の大幅改正を伴う。82歳の陛下の年齢などを考慮すれば結論までの時間的制約があるのも確かだろう。
それでも、天皇が退位する場合の普遍的な要件を定めて皇室典範の本体を改正するか、現在の陛下に限定適用する特別立法で対応するかは、論点として残る。
皇位継承について憲法2条は「国会の議決した皇室典範に定めるところにより、これ(皇位)を継承する」と定める。その皇室典範は4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣皇位継承者)が、直ちに即位する」とし、逝去した場合のみを想定していて、退位の規定はない。皇室典範を改正せずに退位を認めることができるかは議論の焦点になろう。
また、天皇が退位した後の名称や役割、それに伴って皇太子が空席になることの問題点、これらに伴う各種儀礼など、決めておくべき事柄も広範にわたる。
時間的な制約があることや、議論が分散化すれば結論まで時間がかかることはわかるが、法律との整合性がおろそかにされることがあってはならない。
陛下は先月のおことばで「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていく」ことに期待を示した。世論調査でも一代ではなく恒久化を支持する意見が優勢だ。
政府は、生前退位への対応を優先し、その後、皇位継承や皇族維持などの皇室制度の問題に取り組む「2段階方式」で議論を深めていく方針という。
安倍首相は天皇制の伝統に反するとして女性・女系天皇女性宮家に反対の姿勢を示してきた。しかし、このままでは皇室の先細りは明らかだ。生前退位への対応が終わった後に安定的な皇室制度の維持をどう実現するか。避けて通れない課題だ。