「戦争で父が人を殺した」心の疑問反戦に結実 児童文学者が思い小説化 - 東京新聞(2016年9月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201609/CK2016091802000119.html
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「父さんは戦争中に人を殺した」。児童文学作家の中村真里子さん(60)=茨城県日立市=は、子どものころに元軍人の父(故人)から聞いた言葉が、ずっと心に引っ掛かっていた。気持ちを整理しようと、自身を投影した主人公の小説「金色の流れの中で」を書き上げ、六月に出版した。安全保障関連法が施行され、自衛隊が海外での活動範囲を広げた今、「普通の人が殺し、殺されるのが戦争。そこにつながるような動きには絶対に反対しなければ」。安保法に反対する十九日の国会前デモに、足を運ぶつもりだ。 (大平樹)
小学生のころ、食卓で父から戦時中の思い出を何度か聞いた。一九二〇年生まれの父は海軍に所属し、中国大陸や南方に出征した。揚子江の広さや、現地の子どもとの交流の様子などを話す中、変わらぬ淡々とした口調で、中国人の首を斬った経験を語った。
子どもが好きで中村さんをかわいがってくれる優しい父と、人を殺した父。ギャップに戸惑った。母から「戦争だったんだから仕方ない」と言われ、それ以上詳しく聞くことはなかった。大人になり、記憶に残る父の話の断片から推測すると、殺した中国人は民間人か、民間人を装ったスパイだったのかもしれないが、事実は今も分からない。
三十二歳のとき、長女が生まれた。孫を抱き上げる父を見て「この手で人を殺したんだ」との思いが一瞬、胸をよぎった。
幼いころに聞いた事実と向き合わなければと感じていたが、二人の娘の子育てや創作活動に追われる中、父は九四年に病死。二〇〇三年のイラク戦争時に反戦活動に加わっても、心のもやもやは晴れなかった。
子育てを終えた一三年、日本児童文学者協会が「新しい長編戦争児童文学」を公募していたのを機に、「自分のためにきちんと整理しよう」と、原稿用紙百八十三枚の長編を一気に書き上げた。応募作は選考を通過し、出版が決まった。
作品の主な時代設定は、中村さんが父から戦争体験を聞いた一九六四年。小学生の主人公木綿子(ゆうこ)が、日本に「防衛軍」が存在する二〇三〇年からタイムスリップした青年と出会い、自分の考えを持つ大切さや、未来への責任を自覚する。父から「戦争で人を殺した」と聞かされた木綿子は、「それは変えられない」と受け入れつつ、平和への思いを強めていく。
中村さんは、安保法で自衛隊が他国の国連平和維持活動(PKO)要員や国連職員などを助ける「駆け付け警護」が可能になったことに、「人助けを名目に武器の使用を容認させようとしている」と危機感を強める。国際貢献の必要性を声高に唱える主張には、「戦争なんだから仕方ない」という母の言葉が重なる。
「父を責めるつもりはない」という。「父のような普通の人が人を殺すのが戦争だ。小説が、大人も子どもも周りに流されず、想像力を働かせるきっかけになればいい」