BPO 放送の「自律」守る力に - 毎日新聞(2016年8月24日)

http://mainichi.jp/articles/20160824/ddm/005/070/107000c
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放送への苦情や放送倫理上の問題に、放送倫理・番組向上機構BPO)が対応することになっている。その中核を成す放送倫理検証委員会が設置されて10年目を迎えた。
番組への政治介入の動きが強まる中、BPOは放送の自律を守る役割をいっそう果たしてもらいたい。
BPOは、NHKと日本民間放送連盟、民放各局が2003年に設けた第三者機関で、放送界の「お目付け役」とも言うべき存在である。
07年には、関西テレビによる番組捏造(ねつぞう)問題を受け、原因究明のための強い調査権限を持つ放送倫理検証委員会を新設した。
放送倫理検証委が出した決定は、放送局に改善を促す「勧告」など、23件を数える。NHKの報道に絡み昨秋、政府の行政指導を「放送法が保障する『自律』を侵害する行為」と断じた事例なども含まれる。
BPOを巡っては、総務相が「お手盛りも否めない」と批判したり、自民党が政府の関与を検討する構えを見せたりしたことがある。
一方、国連特別報告者が、放送局の監督は、政府でなく独立行政機関が行うよう求めたこともあった。
先進国では放送規制は独立機関が担うのが一般的だが、日本では放送局への許認可や放送停止などの権限が総務相に集中している。それらを改める見通しが立たない状況下で、BPOは公権力による介入の「防波堤」になってきたと評価できよう。
放送倫理検証委は、放送局からの報告や視聴者意見、新聞・雑誌の報道などを基に調査を行う。苦情を受けた場合だけでなく、独自の判断で幅広い問題を扱うことができる。
昨年度、BPOに寄せられた意見は2万2476件にのぼった。各局の自浄作用は十分と言えず、BPOは世論の信頼をつなぎ留めることも期待されている。委員会決定は放送局に反省を求めるだけでなく、国民の理解も得なければならない。
番組による被害の仲裁から、放送界に自ら誤りを正すよう促し、放送行政のあり方を探ることへ、BPOの役割は広がっているのである。
放送倫理検証委の委員は、現在、弁護士や大学教授ら9人。月1回の委員会で多発する問題にどう即応するか。委員選びは放送局の役職員以外で作る評議員会が担当しているが、透明性を高める工夫も必要だろう。
誤報など放送番組の失敗例を分析すると、ジャーナリストの不勉強や経験不足、過剰な視聴者サービス、自己規制が浮かぶという。制作会社頼みの番組作りなど、放送界に共通する構造的な課題も残されている。
放送界は、BPOの決定を誠実に生かすことで自律的に誤りを正す力を見せなければならない。