(余録)8世紀初め、中国に倣って制定した… - 毎日新聞(2016年7月17日)

http://mainichi.jp/articles/20160717/ddm/001/070/184000c
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8世紀初め、中国に倣って制定した大宝律(たいほうりつ)が、わが国刑法の始まりとされる。それには「縁座(えんざ)」という制度が盛り込まれていた。罪を犯した者だけでなく、その家族にも連帯責任で刑罰を科す仕組みである。「縁座」制は後世まで存続し、江戸時代にはとりわけ武家に対して厳しく適用されたそうだ。
家族とはいえ、身に覚えのない罪の責任を負わされてはたまらない。そこで近代民主国家の刑法は、個人責任の原則に立つ。日本の今の刑法も本人に故意や過失がある場合にだけ刑罰を科している。
ところが最近、時代を江戸期以前に巻き戻すような「お触れ」が回った。東京都知事選を巡って自民党東京都連が、所属する国会議員や地方議員に配布した文書である。そこには「議員(親族含む)が非推薦の候補を応援した場合は除名等処分の対象となる」という文言があった。
要するに家族が党の意に沿わない人を応援した場合でも議員本人に罰則を科すぞ、という警告だ。まさに「縁座」制である。分裂選挙のダメージを抑えるため、政党が組織を引き締めようとすることは分からなくもない。しかし家族まで縛ろうとするのはいかがなものか。
選挙で各人が、支持する候補者を選ぶ自由は民主政治を守るためにも欠かせない権利である。尊重すべきは言うまでもない。「自由」と「民主」を看板にする党にも忘れないでいてほしい。
そういえば、かの党の憲法改正草案は、道徳としては当たり前のことである「家族の助け合い」を国民の義務として規定する。議員の家族が候補者を自由に選ぶと、まさか、その義務に反するというわけではあるまい。