(余録)清水の次郎長が賭博の容疑で逮捕されたのは… - 毎日新聞(2016年7月18日)

http://mainichi.jp/articles/20160718/ddm/001/070/231000c
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清水の次郎長が賭博(とばく)の容疑で逮捕されたのは明治17(1884)年。64歳のときだった。裁判は行われず、警察署長自ら取り調べて懲役7年、罰金400円の刑に処せられた。静岡県内の自由民権運動に次郎長と近い勢力が絡んでいるのを疑った静岡県令との確執もあったとされる。
幕臣のころから親しかった山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)らの働きかけで次郎長は翌年に仮釈放される。刑事訴訟法の前身の「治罪法」の時代ではあるが、日本で最初の仮釈放だと「誰も書かなかった清水次郎長」(江崎惇(えざきあつし)著)は述べる。
「入獄中能(よ)く獄則を遵守(じゅんしゅ)し、改心の状あるを以(もっ)て其(その)筋の恩典を蒙(こうむ)り仮出獄を許されし……」。次郎長の仮釈放を報じる明治19年8月18日の東京日日新聞(現在の毎日新聞)の記事である。ずいぶんと模範囚だったことが書かれている。
今年6月から「刑の一部執行猶予」制度が始まった。懲役刑は罪を犯した人を刑務所に収容して反省を促すことが目的だ。しかし、「一部執行猶予」は刑務所で長期服役させるのではなく、社会の中で十分な時間をかけて再犯防止を図ることを目指す。
再犯率が高い薬物依存者の更生や社会復帰につながることが期待されている。仕事や社会貢献活動を通して「社会から必要とされる人」という新しいアイデンティティー(自己イメージ)を獲得することが再犯防止効果を高めるという研究もある。
若いころはやくざ同士の抗争に明け暮れた次郎長だが、仮釈放後は「汽船宿兼温泉」を開業した。「其利益金は悉(ことごと)く公益の事業に之(こ)れを投ぜんとの覚悟なる由……」と社会貢献に晩年をささげたことを同記事は伝える。