届け平和への願い 合唱組曲「ぞうれっしゃがやってきた」:埼玉 - 東京新聞(2016年6月10日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/saitama/list/201606/CK2016061002000163.html
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戦時下の動物園で命を救われたゾウの実話を基にした合唱組曲ぞうれっしゃがやってきた」のコンサートが19日、川口市で開かれる。市民らでつくる合唱団は25年前から2年に1度、この歌を披露してきた。「子どもを戦争に巻き込まないで」「平和の大切さを伝えたい」。今回が初舞台のお父さんやお母さん、おばあちゃんも同じ思いを胸に、練習に励んでいる。(杉本慶一)

 ♪生きているぞうがいるんだ
 本物のぞうがいるんだ
 ぼくたちもぞうがみたい

川口市立教育研究所(旧芝園小学校)の体育館に五日、子どもたちの元気な声が響いた。「川口ぞうれっしゃ合唱団」は昨年十一月に練習を始め、この日はリハーサル。大人たちの歌声も熱を帯びていく。

 ♪ぼくたちの胸から
 あふれでた熱い思いが
 一つに集まって 走らせたぞうれっしゃ

コンサートは今年で十三回目。団員約百七十人のうち、二歳〜七十代の約五十人が初出演となる。川口や熊谷、所沢市など県内だけでなく、東
京都や千葉県から練習に通う人も。
介護士の山本達夫さん(45)=川口市=も新団員の一人だ。妻の千恵さん(42)と小学生の娘二人は過去二回出演しており、初めて一家四人で舞台に立つ。
日本が「戦争ができる国」へと変わろうとする中、「平和の大切さを歌で訴えたい」と山本さん。「『ぞうれっしゃ』はストーリーが感動的ですが、子どもたちが一生懸命歌うのを聞くだけで胸にグッときて、自分の声が出なくなっちゃう」と苦笑した。
元音楽教員の東田あけみさん(67)=川口市=は、孫の前田息吹(いぶき)君(5つ)と初出演する。息吹君は家族でよく上野動物園(東京)に出掛け、お気に入りの動物はゾウだ。
東田さんは「練習が始まったころ、息吹は『戦争って何?』『ゾウさんがいない動物園なんて動物園じゃない』と言っていた。戦争は、生きるものを痛めたり殺したりすること。だから合唱を通じ、戦争はよくないんだという思いを息吹と共有したい」と願う。

 ♪人間の命を いつくしむ心を
 動物の命を いつくしむ心を
 子どもたちよいつまでも 忘れないでほしい

主婦の本橋理絵子さん(35)=川口市=は一歳八カ月の次男・冠(かん)君を抱っこしながら、母の大田志保子さん(66)と親子三代で出演する。小学六年と短大生のときに母と出演して以来、三度目の舞台だ。
「自分がお母さんになって『ぞうれっしゃ』を歌い始めてから、自分の子の将来と平和について考えるようになった。子どもには戦争にかかわってほしくない。本番ではその思いを込めて歌いたい」

      ◇
「第十三回川口ぞうれっしゃ合唱団コンサート」はJR川口駅前の川口リリア・メインホールで、十九日午後二時半開演。チケットは一席千五百円。申し込みや問い合わせは、会長の荒木紀理子さん=電048(268)9256(夜間のみ)=か、電子メール=kawaguchizou21@s8.dion.ne.jp=へ。

ぞうれっしゃがやってきた> 戦時中の日本各地の動物園では、空襲時に猛獣が逃げ出す恐れがあるとして、動物が次々と殺処分された。東山動物園(名古屋市)にいた4頭のゾウもその対象となったが、殺処分を迫る軍部から当時の園長らがゾウを守り、マカニーとエルドの2頭が生き残った。終戦後、子どもたちが2頭に会いに行く特別列車が仕立てられ、埼玉や東京など6都府県から名古屋へ運行した。この実話を基に名古屋市の元小学校教諭小出隆司さんが1976年に同名の絵本を出版。合唱組曲は愛知県で86年に作られ、全国で歌い継がれている。