(筆洗)かつての「江戸三千両」 - 東京新聞(2016年4月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016041902000135.html
http://megalodon.jp/2016-0419-0955-24/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016041902000135.html

かつての「江戸三千両」とは一日で三千両が動いたといわれた経済地域である。一両を十万円としても三億円とは当時としては大した繁盛である。三カ所ある。どこだかお分かりだろうか。
正解は日本橋の魚河岸、吉原遊郭、それに中村座市村座守田座江戸三座が集められた浅草の猿若町、いわゆる芝居町である。
<日に三箱 鼻の上下(うえした)…>。「下五」は控えるが、箱とは千両箱。鼻の上、つまりは目で楽しむ娯楽と、鼻の下の口を満足させる食い物の味に人がおあしを使いたがるのは今も同じか。
江戸の芝居町の繁盛を知ってか知らずか、東京都の舛添知事の唐突な提唱である。ニューヨークのブロードウェーのような劇場街を東京につくりたいとおっしゃる。「東京にもブロードウェーができたという状況が絶対に必要だ」「ないとニューヨークに勝てない」。随分と派手な見えを切ったものである。
もっともその台本では都民は拍手喝采とはいくまい。東京は既に大小百館を超える劇場ひしめく立派な演劇都市。ブロードウェーのように一カ所集中ではないが、それぞれのエリアに劇場が根付き、人々を楽しませている。この上巨費を投じ、劇場街とは理解しにくい。
観光振興を否定しないが、千両箱は鼻の上よりもまず都民の左胸あたりをホッとさせるために使いたい。それに何も、かの地に勝つ必要もあるまいて。