(筆洗)深刻な米朝の罵(ののし)り合い - 東京新聞(2017年9月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092502000139.html
https://megalodon.jp/2017-0925-0909-16/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092502000139.html

「日陰の桃の木」「水瓶(みずがめ)に落ちたオマンマ粒」。落語ファンならきっと何のことかお分かりだろう。いずれも落語の「三枚起請(さんまいきしょう)」に出てくる悪口の類いで「日陰の」は背が高くひょろひょろした人、「水瓶に」は白くて太った人をいう。
この手のシャレによる悪口はかつてよく使われていたようだ。「金魚のおかず」は「煮ても焼いても食えない」。「煮すぎたうどん」は「箸にも棒にもかからない」。「坊主(ぼうず)の鉢巻」は「(すべって)しまりがねえ」…。三代目の三遊亭金馬の『昔の言葉と悪口』から引いた。
江戸時代の喧嘩(けんか)は口喧嘩がもっぱらだったと聞く。露骨な表現ではなく、思わず噴き出したくなるシャレ表現ならば、口喧嘩をしていても緊張は和らぎ、仲直りということもあったかもしれない。
それとは、無縁で深刻な米朝の罵(ののし)り合いである。トランプ大統領金正恩朝鮮労働党委員長を「小さなロケットマン」とからかえば、金氏は大統領を「おびえた犬はさらにほえる」「老いぼれ」とやり返す。品位も愛嬌(あいきょう)もない応酬が緊張を高めている。
「幼稚園児のけんか」。ロシアのラブロフ外相が二人をそうたとえたが、おそろしいことにその幼稚園児が手にしているのは、オモチャのピストルではない。
「谷中の不作」。東京・谷中のかつての名産品にかけたシャレだが、「ショウガ(生姜)ない」では、許されない。