(余録)「スター・ウォーズ」のG・ルーカス監督は… - 毎日新聞(2016年4月7日)

http://mainichi.jp/articles/20160407/ddm/001/070/161000c
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スター・ウォーズ」のG・ルーカス監督は学生時代の1967年に短編「電子的迷宮 THX1138/4EB」を制作した。これがF・コッポラ氏らに認められ、その長編版「THX1138」でプロの映画監督としてデビューしたのだ。
「あのころは世の中がどれだけひどいものかというメッセージを伝えようと懸命だった」とは後年の回想である。映画の舞台は25世紀の地下都市、THX1138はR・デュバル氏演じる主人公の名で、人間が番号で管理される逆ユートピア社会での抵抗が描かれた。
未来の超管理社会を描くSFでの人名の番号化は、人間の個性や主体性が奪われていることを象徴するものだった。さいわい21世紀の世界は前世紀のSF作家が描いた悪夢とは様相を異(こと)にしている。しかし人の番号化の危険をまったく免れているわけでもなさそうだ。
本人確認の公的証明書となり、申請すれば手に入るはずのマイナンバーカードの交付が滞っている。まだ申請者の2割程度にしか渡っていないのは主にシステム障害によるものという。自治体窓口の交付作業でカードのICチップが使えなくなる事態も起こっている。
このシステム障害対策として暗証番号を書いた紙を窓口の職員が預かって処理することもあると聞けば、セキュリティーも何もあったものでない。驚くのはこの混乱のさなか、マイナンバーカードの総合サイトでは平然とカードの申請法や安全性をPRしているのだ。
システム運用機構も総務省も、利用者は疑問や不安など抱くはずのない単なる番号だと思っているらしい。SFならば抵抗と反乱の起きる局面である。