芸術祭に補助金不交付 妨害の後押しにつながる - 毎日新聞(2019年9月27日)

https://mainichi.jp/articles/20190927/ddm/005/070/018000c
http://archive.today/2019.09.27-071204/https://mainichi.jp/articles/20190927/ddm/005/070/018000c

文化庁が、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」に対し、予定していた補助金約7800万円を交付しないことを決めた。
問題視されたのが、従軍慰安婦から着想した「平和の少女像」などを展示する企画展「表現の不自由展・その後」だ。先月の開幕直後からテロまがいの脅しを含む抗議が殺到し、3日で中止に追い込まれていた。
文化庁は不交付の理由を、補助金の申請者である愛知県が、円滑な運営が脅かされる事態を予想していたにもかかわらず、申告していなかったことだと説明する。
情報が十分でなく、適切な審査ができなかったという判断だ。
一方で、あくまでも展示内容の是非ではないと強調する。
しかし、いったん事業を採択して助成を決めたにもかかわらず、開幕後に手続きの問題を理由にして不交付にするというやり方は、展示内容に対する今の政権の不快感を表していると取られても仕方ない。
実際、開幕直後、菅義偉官房長官は、文化庁補助金交付の是非について検討する考えを示していた。
結果的に今回の措置は、自分たちと意見を異にする言論や表現を暴力的な脅しで排除しようとする行為を、後押しすることにつながる。
さらに、そういった風潮が社会に広がっていくことにも強い危機感を覚える。
確かに、不自由展の開催にあたっては、リスク回避の不備など津田大介芸術監督に甘さがあった点は否めない。
しかし、政治権力が補助金の判断を通して、展示内容や作品を選別するようなことはあってはならない。文化人や芸術家から、芸術文化活動が萎縮するのではないかとの懸念が上がるのは当然だろう。
補助金の不交付決定は、愛知県の大村秀章知事が、企画展の再開を目指すことを表明した直後だった。大村知事は、不交付について、「表現の自由」の侵害にあたるとして、文部科学省を相手取り提訴する方針を示した。法廷の場で明らかにするのも一つの手立てだろう。
国は、世界に尊敬され愛される「文化芸術立国」を目指すとしている。そうであれば、なおさら丁寧に説明する必要がある。