広島中3自殺 「なぜ」の徹底的検証を - 毎日新聞(2016年3月14日)

http://mainichi.jp/articles/20160314/ddm/005/070/002000c
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広島県府中町で昨年12月、中学3年の男子生徒が自殺した。学校側は進路指導が原因と見られると説明しているが不明確なことが多い。男子生徒はなぜ自殺に追い込まれたのか。疑問を払拭(ふっしょく)するための調査を尽くすべきだ。
学校側の報告書によると、男子生徒が1年生の時、生徒指導の会議資料に万引きをした別の生徒と間違って男子生徒の名前が記載されてしまった。会議で誤記載に気付いたが、学校の電子データには誤ったままの記録が保管されていた。担任教諭は誤記載のままの記録に基づき、万引き行為のために志望校への推薦はできないと伝えた。男子生徒は面談の直後に自宅で自殺した。
学校の情報管理はあまりにずさんだった。生徒の万引き行為の報告を全て口頭で済まし、パソコン入力で名前を間違えていた。資料の修正や閲覧の仕方は、各教員の裁量に任されていた。非行行為の記録という重要な個人情報の取り扱いについての検証が求められる。
各教員が進路指導に当たる直前の昨年11月に、校長は私立高校への推薦基準を見直して非行歴の調査対象を3年生時のみから1年生以降に変更した。担任教諭は10日間ほどで非行歴を確認するよう求められ、当時の担任や保護者にまでは確認しなかった。進路の選択に重大な影響を与える変更をなぜ入試直前に強行したのか。解明が必要だ。
万引きを生徒本人に確認するため担任教諭は計5回面談したが、いずれも廊下で5〜15分程度の立ち話で済ませた。男子生徒は進路指導をめぐるやり取りで「どうせ言っても先生は聞いてくれない」と保護者に打ち明けていたという。教師と生徒の信頼関係ができていたのだろうか。疑問が残る。
中学校学習指導要領では指導計画の作成に当たって配慮すべきこととして「生徒のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、指導の過程や成果を評価する」としている。できるだけ生徒の良い点を見つけ、良くない点が改善していった過程を重要視しようという考え方だ。現場での進路指導がデータに頼った形式的なものになっていないか、今一度チェックする必要がある。
学校がまとめた報告書に対し両親は「他の生徒たちにも話を聞く必要がある」と指摘している。保護者への説明会では批判や質問が噴出した。学校は保護者や生徒たちの「なぜ」に誠実に答えなければならない。
町教委は第三者委員会を設けて調査に入る。文部科学省は緊急の対策チームを設置した。二度と悲劇を繰り返さないため、不明確な点を徹底的に検証する必要がある。