慰安婦問題 日韓合意を育てるには - 朝日新聞(2016年3月9日)

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国連の女子差別撤廃委員会(CEDAW)は、慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意について「被害者中心のアプローチが十分にとられていない」などと遺憾を表す最終見解を発表した。これに対し、岸田文雄外相が「国際社会の受け止めとはかけ離れている」と述べるなど、日本政府は反発している。
しかし、国連委員会の見解に対して反発するだけでは、合意の精神から離れたメッセージを日韓両国民に送ることにならないか。こうした見解や見方に対する答えは、合意の中身を一つずつ着実に実行に移していくことに尽きるはずだ。
慰安婦問題は、日韓国交正常化50年という節目の年の最後になってようやく合意をみた、両国政府にとって長年の懸案だった。合意に対して、国連の潘基文(パンギムン)・事務総長や米国をはじめとする国々から、日韓のその努力と成果に対して歓迎の意を表する動きがあった。
しかし、日韓双方の国内で合意内容が浸透したと言える状況にはない。むしろ、日韓両国、とりわけ韓国国内には強い反対意見があるのが現状だ。
それだけに、政府間で約束が守られなければ、最終的な解決など望めない。そのためには日韓の政治指導者の強い意思が欠かせない。
実際、変化の兆しも出てきてはいる。日韓合意の発表後、慰安婦のことを「職業としての娼婦(しょうふ)」と発言した自民党の国会議員に対し、安倍首相は国会ですぐに「合意を踏まえた発言を」などと諭した。一方、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は先日開かれた国連人権理事会で、慰安婦問題について言及しなかった。朴政権になって初めてのことだ。
双方とも、こうした努力を重ねることが重要だ。
日韓は、韓国政府が作る財団に日本が政府予算から10億円を出すことで一致している。「元慰安婦の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業」にあたるためだ。最終見解の勧告にある「被害者中心のアプローチ」に重なる部分がある。
また、両政府は慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的」な解決も確認しあっている。
両国政府関係者は、この合意が保たれるように努力し、双方が事実に基づいた冷静な主張を重ねていく必要がある。
日韓が手を携えて合意の内容を着実に履行する。互いに信頼関係を深めながら大きく育てていく。慰安婦問題をみつめる国際社会の視線を変えることも、こうした取り組みの積み重ねにかかっているはずだ。