児童養護施設からの巣立ちを支援 世田谷区、都内で初 - 東京新聞(2016年2月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021802000255.html
http://megalodon.jp/2016-0219-0906-12/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201602/CK2016021802000255.html

◆世田谷区 都内初
児童養護施設を十八歳で退所したり、里親の元を巣立ったりして大学などに進学する若者に向け、東京都世田谷区は新年度、区営住宅を月額一万円で貸し出す取り組みを始める。また、返済の必要のない給付型の奨学金制度も創設する。親の虐待などで親元を離れ、経済的な支援が受けられない若者には、高額な学費や生活費の負担が進学の妨げになっているためだ。 (小形佳奈、川上義則)
児童養護施設出身者らを対象にした家賃補助は京都市が、給付型奨学金は同市と長野県がそれぞれ導入しているが、いずれも都内の自治体では例はなく、全国的にも珍しい。
世田谷区は今月発表した二〇一六年度予算案に関連費用として二千二百四十七万円を計上。区内二カ所の児童養護施設や三カ所の自立援助ホーム、里親の元で生活してきた若者らを対象にしている。
貸し出すのは民間の賃貸住宅を借り上げた3DKの五室で、一室に若者二〜三人で共同生活してもらう。原則として学生は卒業まで、社会人は二年間支援を受けられる。
給付型の奨学金制度は大学や短大、専門学校に通い、親族などから経済的支援を受けられない学生に在学中、年額三十六万円を上限に給付する。初年度は二十人を予定している。
厚生労働省の調査では、一三年三月に高校を卒業した子どもの大学、短大、専門学校などへの進学率は76・8%だが、児童養護施設出身者は22・6%。世田谷区によると、進学できても、学費や生活費を捻出するために働き過ぎて体調を崩したり、費用を賄いきれずに生活が追い詰められるケースも少なくなく、進学先での中退率は高いという。
無事に卒業しても、一般的な貸与型の奨学金を利用した場合、利子を含めて返済しなくてはならない。世田谷区にある児童養護施設「福音寮」の飯田政人園長は「貸与型奨学金を借りて大学進学を望んだ子どもに、将来の負担の大きさを考え、利用を思いとどまらせたこともある。返済の必要がない世田谷区の給付型奨学金は大変ありがたい」と歓迎する。
日本大文理学部の井上仁教授(児童福祉)は「社会的養護が必要な子どもは格差社会の中でも、最も光が当たらぬ存在。他の自治体でも支援が広がれば」と期待する。
◆短大生・田中さん 余裕のなさ友達関係にも影響
児童養護施設で育ち、四月から世田谷区の住宅支援を受ける予定の短大生、田中麗華さん(20)は、区内で一月末に開かれたシンポジウムで登壇し、「お金のやりくりには、いつも苦労しています」と窮状を明かした。
小学二年の時、父親の暴力に耐えかねた母親が家から去り、姉と二人で家出したところを児童相談所に保護された。その後、児童養護施設に入り、高校を卒業するまで過ごした。
短大では、保育士を目指して勉強中。授業料は月五万七千円の貸与型奨学金を中心に賄っており、卒業時には百三十万円を超える借金を背負う。生活費はスポーツクラブのアルバイトなどで稼ぐ。家賃は月四万円。食費を月二万円に抑えても貯金は難しい。
定年退職した父親や結婚して子どもがいる姉には、経済的な援助は望めない。
「友達と一緒に食事したり、遊びに行ったりできない。経済的な余裕のなさが友達関係にも影響する」と悩みを打ち明け、「短大に行きたくない時期もあった」と振り返る。世田谷区の住宅支援について「家賃が一万円で済むなら、差額を奨学金の返済に充てられる」と喜んでいる。